鹿児島

 今日、珍しい人が訪ねてきてくれた。鹿児島で漢方薬局を開業している若い女性薬剤師だ。薬剤師歴は10年にはまだ満たないのかもしれないが、自立意識が強いしっかりとした薬剤師だった。僕を訪ねてくれた理由も分からないし、そうする価値があるかどうかもわからないが、安易な道を捨てて自立の道を選択したことに敬意を表わす。と言うのも、独立した薬局、それも漢方薬を中心に営業しようとすると、成果が現れるのはずいぶんと先のことになるからだ。10年を1単位に考えて、それを2倍3倍と積み重ねてやっと評価してもらえるようになる。一方、病院の前に薬局を開き忠実に処方箋通りに薬を作っていればそれ相当の収入は約束される。しかし、彼女はそれを選択しなかった。舟は自分で漕いでみたいのだ。自分の思うようにやってみたかったのだ。そこのところはとても理解できる。  彼女が今まで誰を師と仰ぎ、どんな勉強をしてきたのか分からない。僕ら現場の人間に必要なのは、学問ではなく、治すことが出来る力なのだ。美しい言葉や治療はいらない。ぶっきらぼうでもいい、バタ臭い処方でもいい、とにかく効かす事だ。そうすれば長いこれからの彼女の薬剤師人生がより輝くものになる。  僕が喋ることを彼女は幾度かメモをしていた。それは20年前の僕の姿だ。一言も漏らすまいと懸命にメモを取った。その小さな積み重ねこそが地域の人達を守って上げれるようになる。緻密な作業を繰り返してやっと人の役に立てれるようになる。  おおらかに喋り、よく笑う彼女の特性を生かし、近隣の悩める人たちの役に立ってくれればうれしい。遠くからわざわざやってきてくれた彼女に、すこしだけ知識のお土産を持って帰ってもらった。ほんの少しだが、知識は苦労して集めるものと思っているから。