思案

 薬局へ入ってくるなり「漢方薬って素晴らしいですね」と今日ある女性が言ってくれた。症状の改善については店頭日誌で紹介してもらうが、わずか3日まえに初めて来ていただいたかたの言葉で、とても嬉しかった。と言うのは、3日前は僕の相談机の前でとても辛そうな表情で終始され、さすがの僕も冗談でほぐすことができなかった。一応状態をつかんで薬を作る段になって、「飲めるか飲めないか分からないから3日分だけお願いします」と言われた。自分が飲めるか飲めないかではなく、主人が煎じ薬を作っていやがるかどうかを心配しているみたいだった。病気の為に自由に薬を飲めない家庭の事情があるのだろう。この種の事は決して珍しくもないのだが。  ところが今日はとてもよく喋ってくれた。そのおしゃべりが又彼女の調子を上向けるに違いない。物事はうまく回転する時には放っておいてもうまく行く。そんな回路に彼女は3日にして入っている。 丁度彼女がやってきた時、運悪く僕が一人で仕事をしていた。スタッフが3人ともで払っていた。覚悟を決めてゆっくり応対していたら何人か入ってきた。でも後から入ってきた人達を先に僕がこなすのをゆったりとした表情で見守ってくれていた。その余裕も又回復を早めるだろう。  僕自信、彼女の一言で慰められたが、喜びは数秒で去っていく。もう追っても届かない。次の小さな喜びの為に、大きい思案を繰り返さなければならない。そういった職業なのだ。ところで僕が幸せを感じた瞬間を集めたら今までどのくらいの時間になるのだろう。1時間か2時間か、1日もないだろう。逆に不幸を集めたらどのくらいになるのだろう。1月か、2月か1年か、それとも・・・