情報

 僕を実際には知らない多くの人が、僕の薬を飲んでくれている。会ったこともないのに信用して飲んでくれている人に感謝する。薬局に実際に足を運べる地域の人達は、僕の人となりは視覚的にも理解出来るが、メール交換だけの人は心細いだろう。  僕は、薬局内で五感を働かせて患者さんの情報を集める。薬剤師は医師のように診断という行為が出来ないから、問診と言って、患者さんの訴えに耳を済ます。一方、メールでの相談でも原則は同じだ。僕が知りたいことを質問してそれに答えてもらう。僕はその人を与えられた情報でイメージする。そしてやっと処方が決まり、薬局だけに許可された薬局製剤を駆使して皆さんのお世話をする。その間は生みの苦しみなのだ。  実際に患者さんと対峙しているときは、出来るだけ明るく楽しく振舞い、生身の患者さんの情報を頂く。僕の前で緊張したりしたらもったいないから、堅い話はしない。沢山の下らない話から真実が見つかることも多い。悲しい顔、嬉しそうな顔、一刻一刻の変化が僕には大きなヒントになる。心が通った時、なにかがひらめき処方に辿り着ける。反射的に出てくるような物ではなく、泥臭い作業がもたらす結果なのだ。とてもスマートな作業ではない。スマートとは縁がない僕がやっているのだから無理はないけれど。  だから、メールで病名を書いてきて、薬を送ってといわれても戸惑う。僕はカリスマ薬剤師ではないから、病名のほかにその人の体質的な特徴をつかまなければ薬は作れない。そうしないと薬を売ることは出来るが、治すことは出来ない。多くの完治した人達は、そういった効率の悪い作業を僕とやってきた人達だ。  歳と友に、なんでこんなに体調が悪いのだと自分でも情けなくなる。しかし、僕の不調は確信犯的なところがあるから泣きごとを誰も聞いてくれない。この歳だから諦められるが、僕のところに接触してくる若い人達は、先が長すぎる。願わくば早く今の苦しみから脱出して、自分のため、家族のため、地域のために活躍してほしいと思う。苦しみだけで過ごすには人生長すぎて、社会に恩返し出来るようになるには短すぎる。