アザレア

 あるメーカーが、サービス用としてアザレアの鉢を60本用意してくれた。今週の月曜日からある基準にしたがって配っている。薬局内のガラステーブルの上に十数鉢、常に並べているが、とてもきれいだ。暖房が効いていることと、蛍光灯で常に照らされているせいで、朝用意する時は蕾があっても、すぐに花開く。一方、事務所に送られてきたままにしておいているものは今だ蕾のままだ。事務所には暖房がないから、冷えるし蛍光灯もそんなに明るくはない。   毎晩僕のところに届くメールは、おおむね事務所にある鉢からだ。薬局の中で、満開になっている花からは便りは来ない。狭い部屋、狭い社会の中で冷たさに耐え、陽光に見放されたような薄暗い重たい空気を吸っている花からだ。ひき立ててくれるものはない。手を差し伸べてくれる人もいない。賞賛の声は浴びないし、釘付けにする華やかさもない。沈殿した冷気にひたすら横たわって息を潜めている。  事務所の鉢は今なにも持たなくても、可能性と言う未知数の生命の営みを内在している。一度開花し、満開を迎えた花に可能性はない。すべてを失う為に時は流れていく。控えめに、そっと花を咲かせよう。いつまでも咲き続けるように、謙虚に花を咲かせよう。冷気の中にこそ命を咲かせよう。境遇を嘆くまい、深い谷だからこそ、登るべき山は崇高なのだ。