勉強会

 牛窓に帰ってきて薬局に立ったが何の役にも立たない。当時は、メーカー主催の勉強会が最も知識を増やせられる機会だった。案内が来ると全部出席していたように思う。メーカー主催だから、要はそのメーカーの製品が如何に優れているかを宣伝し、沢山売って欲しかったのだ。どの勉強会に出席しても、そこには必ずといっていいほど、そのメーカーや商品に惚れこんでいる人がいて、まるでカリスマのように振舞っていた。沢山販売することでメーカーは奉り、本人もその気になって熱弁を振るっていた。今月はどのくらいこの商品を売りましたなどと報告し、成績の悪い人は片隅で小さくなっていた。まるで悪いことをしているような感覚で。どのメーカーの勉強会に出席してもだいたい同じようなもので、ひどいところは売上を競わせて褒賞を出していた。ある勉強会が東京で開かれた時、ホテルの大きな会議場を国旗を先頭に行進したことがある。さすがに僕はそれには従えなかったので、廊下に出て見ていたが、以来その手の勉強会はいっさい出席しないようにした。  その後、何を目標に薬剤師を続ければいいかと迷っている時に、娘のアトピーがきっかけで漢方薬に出会った。20数年前の出来事だが、今思えば、当時絶頂を誇っていたカリスマ薬剤師達の薬局はほとんどつぶれている。末席で居心地の悪さに耐えながら知識だけは持って帰るぞと心に秘めていた。知識を拾い集めて数10年。せめて薬局で対応出来るトラブルはこの田舎でも都市部に劣ることなくお役に立ちたいと努力してきた。売りたいものを決めていて、どんな人が入ってきても売ろうとする薬局がある。当時よりむしろ増えたかもしれない。メーカーから「先生」「先生」と奉られるのは余程の快感らしい。しかし、その快感の為に飲まなくてもよいものを飲まされている人達はたまらない。何か最初から売ろうと決めているところは、必ず雄弁になっている。話すストーリさえ決めているのだから。薬局には雄弁も取って着けた癒しも必要ない。効けば嬉しい、効かなければ悔しい。単純だがそれだけでいいと思う。