達成感

 偶然かもしれないが、今日は、症状が良くなったという報告が随分重なった。11月と言うのに暖かくて気持ちがよいせいだろうか、仕事が暇だったから、することがなく困っていたのだが、嬉しい報告に救われた。  漢方薬を勉強しようと思った頃、ある先輩が、メーカーの薬を売るのだったらあなたに責任はないが、自分で薬局製剤の漢方薬を作るのは全部あなたに責任がかかってくるよと教えてくれた。例えば風邪引きさんがやってきたとき、ルルを売って効かなければ、次に来た時はパブロンを売ればいい。それでも効かなければ、ベンザエースを売ればいい。このような形態の薬局をやっていれば、悪者はルルであり、パブロンであり、ベンザエースなのだ。けっして薬局の評価は落ちない。ところが自分で作った薬を飲んでもらうと全部責任がかかってくる。効かなければ栄町ヤマト薬局が、いや、僕自身が悪いのだ。  そのリスクを冒してまで僕は漢方薬をやりたかった。自分で責任を取るのが自然だと思ったし、その方が達成感がある。物売りになるのは嫌だった。自分で作った漢方薬が効けば小躍りして喜び、効かなければ申し訳ないと謝りたい気分だった。20年漢方薬を勉強してきたが、今でもその気持ちは全く変わっていない。ただ、一緒に喜び一緒に残念がる人はいない。嬉しい報告に数分の間静かに浸り、また現実に引き戻される。症状が好転してくれた患者さんとだけの連帯感が、僕の唯一のご褒美なのだ。