脱出

 ある寒い冬の昼下がり、幼い女の子が、ご飯にもあずかれず、街の通りで物乞いをしていた。それを見た男が「神よ、何故こんなことを許しているのか」と尋ねた。神から日中に返事はなかった。しかし夜に神から返事が来た。「私は、女の子の為に、おまえを作った」と。  いつになったら、僕にも押えきれないような使命感が産まれてくるのだろう。なんとなく極めるべき道は感じて、歩んでいるような気もするが、心から使命感に燃えて困難の中に飛び込むような動機にはまだ遭遇できていない。世の中には、困難とも感じずに、困っている人達の為に尽くしている人が沢山いるのに。その種の報道を見たり、ドキュメントを見たりすると頭が下がる。僕もいつかきっとその人達に近づきたいと思うが、何が障壁なのかなかなか近づけない。  ホームこたつと電気釜とギターくらいしか財産(?)は持っていなかったのに、今は人並みに雑多なものを持っている。それらを捨てて飛びこむ勇気がないのか。いやいや僕は物への執着はない。古いものを捨てて、新しいものを作る勇気がないのか。秩序を逆立ちさせる勇気がないのか。残された時間はそんなに沢山はない。毎日ひとつずつでも捨てないと、この固定された観念から脱出できそうもない。