秋刀魚

 静岡県からやってきた過敏性腸症候群の女の子が今日帰っていった。今回の彼女の目標は、泊まること、そしてガス漏れが起こっていないことの確認。この2点だ。  彼女が牛窓にやってきたのはこれで3回目だ。1回目は、新幹線のデッキに立ってやってきた。牛窓に来てもほとんど口を利かなかった。僕は泊まっていくものとばっかり思っていたが、急に帰ると言い出し面食らった。何の落ち度があったのだろうかとかなり悩んだ。  2回目には新幹線に座ってやってきた。僕と話しをかなりした。彼女は僕に疑問点をぶつけ、納得してこれまた日帰りで帰っていった。その頃はもうコンサートや、美容院などにもいけるようになっていた。本屋さんに行くことも困難だったのに。道を歩くのさえおびえていたみたいだったのに。  3回目はハードルを高くして、我が家に泊まることが大きなテーマだった。夕食に秋刀魚の焼いたのを出してあげた。魚は苦手みたいだったが、新鮮な魚の美味しさに驚いていた。食べず嫌いなのだ。秋刀魚を生まれて初めて食べたらしい。食べ方も教えてあげた。夜は一緒に港を歩いた。犬が好きみたいで我が家の2匹の犬を散歩させてくれた。夜の港の風景を経験してもらった。何しろ目の前に富士山が見える山の町の人だから。泊まることは何ら問題は起こらなかった。軽々とハードルを越えていた。今日は一緒に教会に行った。数百人の信者さんの中に混じって1時間を過ごした。牛窓から岡山まで小1時間一緒に車に乗ったり、教会の中で数百人と行動を共にしたりして、ガスもれなんかが実際にあるわけがないことは簡単に分かる。と言うより、そんなことを話題にする必要もない。決して食べ物を口にしなかった過去2回と違って、今回は食事もデザートも彼女にはハードルではなかった。  1つ驚いたことがある。これは偶然妻も口に出したのだが、彼女は全く別人になったということだ。外見もそうだが、かもし出す雰囲気が以前のようにおびえていない。若い女性の普通の輝きなのだ。ガス漏れの思いこみ病が治るだけでこんなに人が違ってくるのかと、一段と闘志が沸いてきた。役に立てると言うことは喜びなのだ。