男やもめ

 老いて妻をなくしたその人は、ワンマン経営者の面影はすでになく、虚空を見上げるよな空ろな視線で、見失いそうな言葉を拾う。言葉は断片の連続でつじつまを忘れている。断絶した回路に翻弄されながら懸命に社会の動きについていこうとするが、後ろ姿は遠くなるだけだ。男やもめは、橋げたで雨露をしのぐのか、公園に青いテントを張るのか、社会から隔離されるのか。精神はいき場を失い痴呆の中に隠れることで健全を保つ。  助手席にコンビニ弁当の食べ粕。タバコで焦げたズボンにクリーニング店の値札。自尊心はすり減ったタイヤのスリップ痕。夢のない夕焼け、希望を照らさない星。肩を落とした後ろ姿を追い越す秋風。誰と語ろう秋の夜長。生きる事は孤独への旅。終着点に漂流する旅。  老いて妻をなくしたその人は、今日も大ボラを吹いて、枕に涙する。最終章に幸あれ。