もこみち

 僕には、声だけの患者さんが結構いて、神秘性ゆえに常に新鮮な関係を保っている。その方々はどうか分からないが、僕は内容は勿論だが、話し方、話し声などに想像力を働かせて情報を得ようと努めている。それは恣意的なものでなく、多くの方も日常で自然に行っている行為だと思う。祝日で緊張感もなくのんびりと仕事をしていたら、5人連れで訪ねてきてくれた人達がいる。二人は既知の人なのだが、三人は初対面だった。紹介されて分かったが、すぐ頭の中が混線した。香川県から来てくれたのだが、僕が薬を送っている人と関係ある人らしい。僕はその人のお嬢さんと理解した。ところがすぐに話に矛盾が出てきて、そうではないと思い始めた。結局、話しの矛盾をほぐしていくと、まさに薬を送っている本人そのものだったのだ。もう何度も電話で話しをしているから、一度それが理解できれば、話し方、話し声もまさに本人のものだとわかる。僕がこんなにも勘違いしたのは、目の前にいる女性があまりにも電話で想像しているより若くて、お洒落だったからだ。本人にも別れ際に断わったからここで話題にしても怒られないだろうが、電話の声は低音で、ゆっくりなのだ。だから僕は僕とあまり年令の違いがない人と勝手に決めていた。なるほどカルテを見なおすと、確かに僕の息子に近い年令だった。先入観とは、いやいや思い込みとは恐ろしいものだ。電話で泉ピン子が会えばイ・ヨンエに変わるのだったら、まだ見ぬ人達にも会ってみたいものだ。牛窓に住んでいる人以上に電話で話している人も結構いるから。しかし、その人達にとっては気の毒だが、「もこみち」が「朝青龍」になる。