下り坂

 職業柄、「ストレスはないですか?」と尋ねる事が多い。質問を発しながらも、自分で愚問だと思う。ないと答える人などいないから。ところがこれがいるのだ。どうだろう1年に一人もいないと思う。数年に一人くらいだろうか。今でもないと答えた人の顔が浮かぶのだから、滅多にないことだけは確かだ。その人達に一体何が共通しているのだろうかと考えても、最大公約数は見つからない。少し知的に劣る人、わがままが許される環境が備わっている人、宗教に邁進している人、仕事の虫・・・  どれも僕には当てはまらない。当てはまらないから、僕はストレスを抱えきれないくらい抱えて生活している。自分で自分を形容するとしたら、さしずめ「ストレスが白衣を着ているようなもの」だ。白衣でごまかしているのは、ストレスだけではない。勇気、愛、献身、親切、犠牲・・・人として備え付けなければならない最低の倫理の欠如を白衣で覆い隠している。僕の白衣がいつも汚れているのは、中から染み出したそれらのものの悲鳴かもしれない。  僕もいつか、「ストレスってどう言うこと?分からない」と答えてみたい。その時はきっと、僕は僕でなく、ひたすら楽な下り坂を歩いているだろう。頑張っているからしんどい、そんな人生を曲がりなりにも歩んできた。立ち止まることに慣れていない分、自分にプレッシャーをかけて生きてきた。自分の生き方に折り合いをつけるのは難しい。大した人生ではないのに。ひたすら下ってもいいではないか。数年後に再び現れる「ストレスはない」の人物が、自分であることを願う。