振舞い

 どうして君はそんなに陽気に振舞うんだ。そんなに楽しそうに振舞われると、僕の勘が鈍ってしまうではないか。何年も体調が悪くて苦しんで、青春の一番輝く時を涙で濡らし続けているはずなのに。僕は君の正直な心のあり様を知りたいし、痛みには顔をゆがめて欲しい。電話では泣いてばかりだったのに、もう1時間も、僕は君の楽しい話題や、笑顔を絶やさない表情に慰められている。君は僕に症状を訴えにやってきているのに、僕は笑いを抑えることが出来なかった。二人ともよく笑ったね。僕は君の笑顔の中の、封印された心を知りたい。君の病気に原因がないなどとは思えない。いくつもの精密検査を潜り抜けた囚われの心を知りたい。患者の君が僕を接待してどうするんだ。君は貪欲に治ることだけを要求すればいいのだ。  僕に出来ることは、君が力を抜いて生きることが出来るようになる煎じ薬を作ること。もう随分君は肩の力が抜けてきた。自分でもそれは認めていたね。機関銃のような会話はなりを潜めて、随分落ちついた大人の女性に見えてきた。それでも尚君は、人を傷つけるのを怖がっている。過去の何が君をしてこのような個性にしたのか分からないが、もう随分自分を傷つけてしまったね。もうそろそろ許そうよ。こんなに懸命に生きている自分自身を。誰も傷つけていない、何も要求していない、泣いてばかりだった君自身を。  結婚して赤ちゃんを生みたいといっていたね。勿論可能なことだ。こんなに苦しんでいるのだから、当然の権利ではないか。陽気も笑顔も赤ちゃんの為にとっておいて。君は今顔をゆがめて「辛いから治してくれ」と言えばいいのだ。悲しい時には悲しい顔を、つらい時には辛そうな顔を、痛い時には痛そうな顔を。僕ら凡人はそれでいい。