荒川静香

 荒川静香が多くの人に支持され、逆にほとんどの人が批判しないのは、彼女の権威に媚びない凛とした姿だ。毎日マスコミに出てくる世に言う肩書を持った人々が、マスコミにうまくのせられ自分を見失い、やがて使い古されるのを目撃する。政治家しかり、弁護士、医師、企業家、芸人、旅館のおかみから、ラーメン屋のおっさんまで。なんでもあり。刹那の視聴率を稼ぐ為に、マスコミは何でもする。さっきまでポルノまがいの場面を流していたのに、もう善人づらして違う番組を流している。権威に滅法弱いくせに、正義ズラは得意中の得意だ。  荒川静香は挫折を人生の糧にした。でもそんな人間は一杯いる。ほとんどの人がそうだろう。彼女がえらいところはそれをことさら強調して売りにしないことだ。視聴率を稼ぎたいマスコミは、ことさらそれを強調するが、一般人にとって珍しくも何ともないような事を特別視されたらたまらない。普通の人間は、数え切れない挫折を、ほんの1回の小さな成功体験でごまかして生きているのだから。  僕らは本当に尊敬出来る人に飢えているのだ。一見立派に見える人間達に実は許しがたい価値観が宿っていることを知ってしまったのだ。欲望の塊が、紳士づらして今日も横断歩道を渡っている。その道を渡れば、獣道に通じているのに。