おり

 老人会の集まりがあると、母は決まって、食べ残しをおりに詰めて持って帰る。それを僕のところに持ってきてくれる。食べ残しと言うより、ほとんど手をつけないと言った方がよいかもしれない。たまにはビールもついている。おりと一緒に配られるらしいが、母はいつもジュースではなく、ビールをもらってくる。酒が飲めないのに皆さん不思議がっているかもしれないが、それもまた僕のためなのだ。  何歳になっても、親は親を続ける。いいかげんに止めることはしない。毎日、2kmちかくを歩いて薬局にやってきては、開口一番「何かすることはない」と言う。何かしてもらわなければ薬局が回っていかないと言うことはないのだが、僕は、用事を沢山作る。僕の仕事を手伝うことで、母は毎日緊張感を保つことが出来る。お蔭で同年輩の方に比べれば数段元気だし、頭も冴え渡っている。最近泊まりに来てくれた女性は、おばあちゃんは可愛いと言ってくれ、電話もしてくれたらしい。  子供は親の愛にこたえて、親を愛するようになり、愛された分、人の痛みも覚えるらしい。幼い時にこのキャッチボールが出来なかった子が、成長すると人を傷つけるようになるらしい。子供が悪いのではない。愛情を注がれなかった子は、思いやる心を教えられなかっただけなのだ。 赤ちゃんの世話をすることが幸せと感じられなかった親が哀れだ。しっぺ返しは、親だけでなく、社会全体に来る。