不純

 頚椎ヘルニアが、僕の漢方薬で劇的に改善していただいている人がいる。寝ているとき以外は激痛と言っていて、とても冗談など言える状況ではなかった。ほぼ麻薬に近い飲み薬も効かない。高齢で手術は拒否されていた。服用3ヶ月の今は9割がた改善したから冗談も言える。
 以前から気になっていたのが、右手中指の第一関節が60度くらい明後日のほうを向いている。来る度に感謝の言葉を言ってくれるからもういいかと思い「ご主人、この指はどうしたの?」と尋ねてみた。するともう30年位前に、ベルトコンベアに挟まれて切断しかけたらしい。病院で外科医に「これは切断したほうがいい」と言われたらしいが「せっかくまだくっついているんじゃから、切断せんようにしてえ(しないようにしてください)」と言ったらしい。それで今、よその方を向いてはいるが5本揃っているらしい。「いい判断をしたなあ」と僕は答えたが、本当にそう思う。専門家が言うのだから多くの場合従ってしまいそうだが、希望は口に出してみるものだ。
 今だから笑い話で言えるが、指を失いかけた瞬間の恐ろしさはいかほどだっただろう。開幕をちょうど1年後に控えたパラリンピックの映像が多く流されるが、鍛えられた肉体以上に、鍛えられた精神の強さに驚く。半世紀前にこうした映像を見る機会があれば、もう少し、いやもっともっと、お役に立てる学部に合格するべく努力ができていたのにと思う。薬局を継ぐのがいやでなんて不純な動機が今になって恥ずかしくもあり悔やまれもする。