夜風

 夜の9時前に中学校のテニスコートに出かけ、体育館からかすかに漏れる明かりを頼りにもくもくと周回する。今夜は歩いても汗ばむこともなく、時折かすかに吹く風が火照った体を優しく冷やしてくれる。空は雲に覆われて暗かったが、恐らく湿度もそんなには高くなく、季節を止めたい位さわやかだった。あまりの疲労で散歩に出るのを迷ったが、出てきてよかったと思った。あまりの気持ちよさに「眠ったまま歩けれるのではないの」と想像を膨らませていた。
 実は朝食を食べている間に一気に気分が悪くなり、体から力が抜けていくのが分かった。そのまま横になればもう起き上がれないのではないかと思ったので、懸命にこらえて何とか用意されたものを胃袋におさめた。朝の散歩のときは元気だったのに、10秒くらいの間に体調が急変した。いっそのこと起き上がれないくらいだと周りが理解してくれるが、なまじ体調が悪いくらいだと理解は得られない。スタッフの数がぎりぎりで動いている小さな薬局だから、抜けることはかなりの負担を他のスタッフに与えてしまう。願わくば、今日一日休まずに働かせて欲しいと心の中で祈った。そして緊急事態の時に飲む漢方薬などをぐい飲みしてしんどいまま仕事をしていたら、10時頃には何となく元気になり、通常通りの仕事ができた。
 この歳になって人生で一番働いているのだから不調はどんどん増える。とどまること知らないくらいだ。日替わり定食におびえて、憂鬱になることもある。ただ例の樹木希林の生き様を見ていたら考えさせられることが多々あり、何度も何度も彼女のことが頭に浮かぶ。