あやかり焼き

 僕に言わせれば単なる胃腸のトラブルだと思うのだが、体調不良に慣れていない人はこれは大変なことになったと思い、胃腸科を訪ねたり、それで解決しなければ心療内科を受診する。そうしているうちにどんどん深みにはまり、病人になってしまう。  この人もそのパターンだ。しかしある人の紹介できてからあっという間に改善して、もう少しで恐らく完治する。この異常な早さでの完治は(現在漢方薬を飲み始めて丁度1ヶ月)僕の実力かと思っていたら、意外や意外、ひょっとしたら彼自身の工夫、特技が貢献していたのかもしれない。  彼を僕の薬局に紹介してくれた人が「自分で煎じるための土瓶をつくって飲んでますよ」と教えてくれた。調子も良さそうだと付け加えて。僕は煎じるための器は何でもいいとずっと言ってきているし、彼にもそう言っている。ところが焼き物の修行中の彼は何と自分で煎じ器を作ってしまったのだ。僕は興味があったのでその自作の煎じ器を見せてくれるように頼んだ。すると今日3回目の漢方薬を取りに来るついでに持参してくれた。その出来映えを僕の拙い文章で表現するのは難しいから、若夫婦に写真を撮ってもらい、彼らのホームページにアップするように頼んだ。だから外見はそちらに任せるが、彼の手作りの土瓶の効用を聞いたからここで紹介する。  熱伝導率がいいから火から下ろしてもまだ沸いている。保湿性がいいから内壁にエキスがしみこんで、日に日にエキスが濃くなる。この2点を強調していた。なるほど生薬のエキス分を余すところなく抽出できるのかと思ったが、僕はそうした機能面よりも、そのものの持っている作品としての価値の方に興味があった。そしてデザインも全く自由なのだ。 一言で言うと「マイ煎じ器」なのだ。世界で一つだけの自分だけの煎じ器なのだ。確かに1ヶ月使っている彼の手作りの土瓶も、なかなか趣がある。恐らく作ったときとはかなり違ってきているのではないか。使うからこそ変化する生きた土瓶だ。蓋を開けるとかすかに煎じ薬の残り香がするが、煎じ薬を飲んで治療するんだと言うより、風情を楽しみながら健康を取り戻すと言った方が言い当てているかもしれない。なかなか治療のモチベーションを維持するのは難しいが、こうした楽しみがあればすぐ諦めて続かない人でも目的を達してくれるかもしれない。「もし、マイ土瓶を欲しいと思った人がいたら作ってくれる?」と尋ねたら快く引き受けてくれた。もうその顔には1ヶ月前の苦痛の表情はない。プライバシーがあるから具体的な症状は書けないが、ただ驚異的な早い回復にあやかって僕は彼の土瓶を「あやかり焼き」と名付ける。もし希望の方がいたら連絡して下さい。世界に一つしかない土瓶で煎じれば、早く治りますよ。