正常値

 郵便検診の結果が送られてきて恐る恐る開けると、従来なら異常値を示す赤字が多いのだが、今回は一つもなかった。そこでやったと思ったのもつかの間、一つ一つを見てみると最初の総コレステロールがなんと9だった。従来ならここから赤字がスタートするのだが、標準より低いわ低いわで、ほとんど生きているのが不思議なくらいだった。そしてそのほかの値も軒並み高いのに何故か黒字だ。極めつけはクレアチニンでなんと22(基準値 成人男性0.66-1.13 mg/dl)。もうほとんど透析も通り越して、あちらの世界にいる数字だ。この一年、赤字対策として甘いものを控えウォーキングを欠かさなかったのに、この値はその努力を全部吹き飛ばすようなものだった。それもかなりの威力で、実は極度の不健康なのだろうかと、一瞬わが身体を疑った。  喜びから失意へ一気に転落してそれでもかすかな望みを抱いて見直してみると、血糖値の値が載っていない事に気がついた。このところ、血糖値も甘いものの逆襲で基準をオーバーしていたのだが、値がないのはおかしすぎる。薬剤師会が毎年斡旋して行っている郵便検診で、信頼は厚いと思うがさすがに僕も、ひょっとしたら何か検査してくれる側に落ち度があるのではないかと疑った。そこで会社に電話してみると、電話に出た女性がコレステロール値が低くてよかったではないですかと言った。低くてよかったと言われても155から199といわれている基準と比較のしようもない。コレステロールは少し高めが元気だから、一桁ってどんな人間なんだろうかと思う。僕は間違えて蛇の血でも送ったのかと思った。他の値も告げるとさすがに何か気がついたみたいで、電話をいったん切って、その後まともな返事をくれた。  検査自体は正しい値が出ているが、それをプリントアウトする時点でなんらかのミスがあってあのようなとんでもない数字が郵送されたと説明してくれた。正しい値を速達で送ると約束してくれて早速今日手元に届いた。そしてこれまた恐る恐る値に目を通すと、なんと、何十年ぶりに皆基準内に収まっていた。ただこれは素直には喜べない。受付の女性がお詫びの品も一緒に送らせてもらいますと言ったが、きっとお礼の品とはこの検査結果なのだと思った。何故なら僕が「お礼なんて要りませんよ。僕はそんな人間ではありませんから。ただ、もし検査数値で異常があったら、正常値に直しておいて。ガンでも健康と直しておいて」と頼んでいたから。