不意打ち

 「〇〇サンガ オトウサント オカアサント ワカレルノツライ ズットナイテイタ ヨロシクイッテ クダサイ ナンドモイッテ バスニノッタ」  深夜に迎えに来たバスに乗り込むまで、帰った3人のうちの1人が言い続けていたらしい。僕はきっぱりと区切りを付けていたつもりだったから、不意打ちを食らったような気がした。折角後ろ髪を惹かれること無くお別れできたのに、その様子を想像すると哀れに思えた。そう言えば彼女が一番口数が少なかった。日本語が得てていないせいもあるのだろうが、今思えばそれだけでないような気がする。フェイスブックにはいつも社会問題を取り上げていたらしくて、妻が一目置いていた。僕はその類を見ないことにしているから妻から教えてもらっただけだが、熱心な仏教徒でもあったから、僕ら夫婦が3年間にさせてもらったことを評価してくれたのかもしれない。  ただ一日経って僕が不意打ちを食らおうが何をしようが問題ではない。若くて先が長い青年が過去に引きずられてはいけない。かの国の空港に降り立ったら、再び新たな道を切り開き、有意義な人生を送って欲しいと思う。3年間と言えば中学生を全うできる時間、高校生を全うできる時間だ。やりようによっては人生を決めることが出来るくらいの時間だ。日本で過ごした同じ時間が、人生を決めるほどまでは行かなくても、人生の質を高めることに貢献できるそれであって欲しい。その一角を担えたとしたら幸せだ。僕の年齢になって、職業以外でなかなか人の役に立てるのは難しいから。