健在

 しばし、見とれた。何のなせる業なのだろう。自然のなせる業か、神のなせる業か。  言葉で伝えるのはかなり難しいから、姪に写真にとるように依頼して、それをホームパージにアップするように頼んだのだが、今確認したらアップされていなかった。対象が対象だけに、はしゃいだのは僕だけだったのかもしれないが、その神秘性に「気持ち悪い」などという俗っぽい表現は御法度だ。  今朝、シャッターを開けて薬局の中に入ろうとして、ガラス戸に小さな木片が付いているのを見つけた。小枝を2cmくらいの長さに切ったようなものだ。どうしてこんな小さな木片が、滑りやすいガラスにくっついているのだろうと不思議で目を近づけてみた。すると、木片から見えるか見えないかのような細い足が出て、しっかりとガラスにくっついていた。最初は2本しか見えなかったのでガラスの反対側に回ると6本、足が見えた。なんだひょっとしたらこれは蛾か何かがカモフラージュをしているのではと考えて、ほとんど顔をくっつけるくらいにしてみると、なんと木の断面にあたるところに目らしきものが二つ付いていた。10cmくらいに接近して眺めて初めて目が見えた。そしてその木片(蛾)は微動だにしない。動かなければ恐らく何にも発見されないのではないだろうか。人間には知識があるから見破ることが出来るが、他の生き物には難しいかもしれない。まさに3dプリンターでコピーして枯れかけた木の色をまねて作ったようなものだ。種を絶やさないために獲得した術なのだろうが、ほとんど神秘的としか言いようがない。  捕まえて、どこかに発表すれば、有名になるのではないかと思うくらいの朝の出来事だったが、次々やってくる人たちが、なんら感動しないので、そのうちに僕の心は萎えた。ただ好奇心も、感動する心もまだまだ健在だと自分で慰めることが出来る朝の出来事だった。