重金属

 知らなかった。漢方薬に関しては重金属の検査は義務づけられていないのだ。そんなもの当然すぎて考えることすらなかった。ところが検査機器に億の金をかけるのは企業も大変なので、機器を自前で揃えているところなんてそんなにあるものではないらしいのだ。外部の業者に委託する手もあるが、義務づけられていないなら手を抜くのが人の常だ。漢方薬は中国から入るものが多いので、食品並の検査をしなければ口に入れることは出来ない。普通漢方薬を標榜している薬局なら、生薬問屋も、製薬会社もかなりの大手としか取り引きしないから、重金属は勿論、放射性物質、添加物などもクリアしているだろうが、例えば葛根湯など、80の製品があるというのだから、小さな名も知らないような会社が果たして信頼に足りうる投資をしているのだろうか。 ある製薬会社の人が、放射性物質について僕がうるさいので、業界の内実を教えてくれた。今まで実績のある会社のものしか使わなくて良かった。棚に並べて値段を競うようなものを扱ったことがないので、知らず知らずのうちに人を傷つけたりはしていないと思う。折しも明治のミルクからセシウムが発見されたという報道を聞いた。噴霧した空気に混ざっていたというのだから、一体何処で作っているミルクなのだろう。空気中に漂うセシウムがミルクに吸着して濃度を増したってことだろうから、日常のどんな状況で同じようなことが起こっているか分からない。空気でこの程度なのだから、水の場合はもっと高濃度になるのではないか。いくらでも懸念は広がるが、罪深い報道は今日も又あの殺人的な「暫定基準を下回っている」と言うフレーズを多用している。本来限りなくゼロに近かったものが大量に混入していると表現すべきだ。  悪意が無くても知らず知らずのうちに人を傷つけてしまう時代だ。一方、悪意に塗りつぶされたような企業が税金で養われている理不尽に、心が凍る。