一心不乱

今日も薬剤師。  ペンシルバニア大学の心理学者アンジェラ・ダックワースらの研究で、従来成功の鍵を握るのは知能や先天的な才能だと考えられていたが、それらはほとんど関係なく、根性や感情と言った精神的な特性が重要だってことが明らかになってきたらしい。 これは朗報だ。持って生まれたものが関係ないなら、もう一度この僕だって浮上できるかもしれない。下りっぱなしの人生かと思っていたが、根性も感情も学校時代の成績とは関係ないからどうやら同じ土俵で勝負できそうだ。  アンジェラ・アキの言葉を具体的に表現すれば、目標を決めたら、その目標に向かって一心不乱に努力することが成功の秘訣なのだそうだ。これはちょっと引っかかる。まず今の僕にはもう目標はない。そしてもともと一心不乱にコツコツというタイプではない。長い間心の腐乱で苦しんでは来たが不乱は縁のない言葉だ。この辺りはアキもお見通しらしくて、「好奇心が旺盛で、様々なものに関心を示す人、目標達成を途中であきらめて新たな目標を設定する人は、なかなか成功を勝ち取ることが出来ない」と言っている。実例として「トーマスエジソンが、天才は1%の閃きと99%の努力と言っていることや、ニュートン万有引力の法則まで行き着くのに数十年に渡る地道な研究を要した」ことなど上げている。僕は偶然リンゴが落ちるのを見て閃いたのかと思った。その事を真に受けて子供の頃は良く柿の木の下で遊んだものだ。柿の木が悪いのではなく、僕が悪かったのだと今気がついた。  こんな性格は僕だけかと思っていたら、結構普遍的な人間心理らしくて「人類の歴史の中で一番長い時代は狩猟採取生活を送っていた時代で、その時代にもっとも大切な能力は周囲のあらゆるものに関心を示し、小さな変化も見逃さず、状況に応じて俊敏に行動できるもの」だったらしい。だから好奇心旺盛な生活は遺伝子にインプットされた快の根元らしい。逆に産業社会に変わってからは、目標に向かって計画をたてて行動する能力が求められるようになったらしいのだ。これは本来的に言えば不自然な行動で苦痛意外の何ものでもないらしい。だからこの苦痛に耐えられる人や、苦痛と感じない小数の人が成功者になる確率が高いのだそうだ。  ああ、これは悲報だ。僕のもっとも苦手としていることだ。人生の華はすでに散ってしまったが、気が散る程度は誰にも負けない。物事に集中できないこと甚だしい。人生で唯一集中できたのはパチンコだけだ。眼を閉じればチューリップがどんな時でもどんな所でも満開だった。その他大勢を地で行く理由が今回良く分かったが、ただ水野アキの理論からは先天的な才能も一心不乱も持っていない僕ら凡人のことが落ちている。落語ではないのだから落ちはいらない。