復帰

 父の法事のために帰ってきた姉二人は、珍しくのんびりしている。千葉と横浜に住む二人にとって、そんなにしばしば帰ることが出来る距離ではない。冠婚葬祭を利用するのが一番納得出来る理由付けなのだろう。今夜母を交えて食事においでと誘われたので、楽しみに母の家に行ったのだが、脂滴るではなく、和食の精進料理に近いような内容だった。長女はとりわけ料理が上手なので、僕が口にした事がないような珍しいものを作ってくれるのかとおもいきや、極日常の家庭料理だった。母がいることもあるだろうし、母の家の冷蔵庫の中のもので作ったらしいから、当然の成り行きだと言えばそれまでだ。  食事もそこそこに帰ろうとする僕を見て姉達は僕のことを気遣ってくれた。薬剤師さんが休んでからと言うものは、5時に起きてすぐに注文の漢方薬を作る。8時からはいつもの仕事なのだが、決して今は休めない。日常の仕事のほかに、薬剤師さんがやってくれていた、病院や特別養護老人ホームの薬をひたすら作り続けなければならない。1日に60人くらい作らなければならない日があるので、深夜まで作業が続く。5時間くらい寝たら目が覚め、すぐに調剤に取りかかる。今までは機械の取り扱いも面倒で薬剤師さんに任せっきりだったのだが、今はひたすら身体で覚えるように調剤にうちこんでいる。  ところが僕の薬局では、僕に愚痴を聞いてもらうために来ているような人がいて、その人達のグチも聞けない状態になっている。申し訳ないけれど、薬剤師さんが復帰するまで僕は調在室に閉じこもらなければならない。明日は心を病んで奇跡的に回復している方がくる。毎週僕はその人の為に、1時間付き合う。明日僕の心が調剤を焦って、その方の心の叫びを聞いて上げられなければ又悪化してしまう。僕自身が試されることになりそうだ。