記憶の空

 なんて幸運なのだろう。
 今日の牛窓は、風もなくよく晴れて、春のようだった。こんな日は枯草を焼くにはうってつけだ。朝の8時ころドッグランに行き、何度も枯草を集めては焼いた。
 昼食後もさっそく再開したのだが、その時に何となくトンビの鳴き声が聞こえた。例のピューヒュルルと言う定番の鳴き声だが、なんだかすごく近いところで聞こえたのだ。本来なら空を見上げるのだが、なんとなくもっと近く、低い所のような気がした。鳴き声の方を向くと、なんと15メートルくらいしか離れていない、解体後の小屋の錆びた鉄筋の柱の上にトンビが止まっていた。高さは3メートルくらいの柱だ。
 カラスの至近距離はしばしばだが、トンビは初めてだ。空高く滑空している姿しか見たことがないから、こんなに近くで見られたことに感謝だ。おかげで、色や形や大きさ、いや顔の表情まで見ることが出来た。あっけにとられて見つめていると、数分もしないうちに市役所のはるか上空まで飛んで行った。
 ところが見送った後、また近くで同じ鳴き声が聞こえた。なんと今まで止まっていたすぐそばの鉄筋の上にもう1羽止まっていたのだ。最初に見つけたトンビに集中していて気が付かなかったと思うが、2羽目は一緒には飛んで行かなかったことになる。
 僕は焚火の煙がトンビの方に流れていかないように体を張って阻止しながら眺めていた。恐らく5分以上そこに留まってくれたと思う。一言で表すと「至福の時間」だった。つぶさに自然の中で生きているトンビを観察できたのだから。いや観察ではない、「同じ空間にいた」と表現したい。僕を恐れて逃げなかったのだから。
 やがて同じように市役所の方向に飛んでいき、はるか上空を3羽のトンビが飛び始めた。大きく旋回する姿は、60年前に見上げた記憶の空を飛ぶ鳶そのものだった。

 

電通逮捕で自民党も大打撃。「電通と一緒に受注調整した」組織委元次長、五輪談合を認める供述。電通マン達が六本木や銀座で豪遊も出来なくなった。元博報堂作家本間龍さんと一月万冊 - YouTube