恩恵

 家族数人の漢方薬を作っている大阪の方から、いつものように注文電話が入った。症状報告を聞いている途中に、稲刈りが忙しくてせっかく安定していた血圧が少し高くなったと言われた。
 その瞬間、かなりの違和感があったので聞き間違いかと思って尋ねた。「稲刈り?」こちらの驚きとは関係なく冷静に「そうです、稲刈りが忙しくて疲れがたまっているんですわ」と言われた。多くの方も僕と同じ違和感を持ってしまうのではないか。どうしても大阪と稲刈りがつながらない。
 「大阪に田んぼがあるの?」と直球の質問をしてみた。すると4反くらいの田んぼが家の近くにあるらしい。4反がどのくらいの広さなのかわからないが、この辺りでもそのくらいの数字を言う農家の方はおられる。
 大都会に4反の田んぼを「残してくれている」ことが、関係もないのに嬉しかった。おそらく近隣の方も喜んでいるのではないかと思ったから、尋ねてみるとやはり、近くの老人施設の方々がよく来られ、春はレンゲ畑にしてあげているからとても喜ばれると教えてくれた。
 長年この仕事をしていて、心を病み加減の現代人が自然の恩恵を受けていないことに気が付いたから、よく歩いてとか、自然の中に出かけてとか、犬を飼ってとか言うことが多いが、大都会でそんな土地を持っている人が、僕の漢方薬を利用してくれている人の中にいたことが嬉しかった。どうりで血管を柔らかくする煎じ薬がとても良く効くはずじゃあ!と納得した。
 ところでこの話には落ちがあって、大都会で田んぼを維持するのは相続税対策らしく、なるほどなと思った。あんな土地だと、どれほど莫大な相続税を取られるだろうと考えたら、腰が痛くても太陽に照り付けられても農家を続けるだろう。ただし、理由は様々でも、田んぼが広がっている景色はかなり貴重だと思うし、気が付かない間に近隣の方々は恩恵を受けていると思う。

 

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