こと花に関しては、僕の右に出れない人はいない。みんな右に並びそうだ。今日もそんな体験をした。
 最近は女性の配達員が多いから、薬を受け取る時もギスギスしていない。男性だと単なる受け渡しだが、女性の場合、時にそのギスギスを会話が中和してくれる。
 午後来た配達員が、「ミモザの花がきれいに咲いていますね」と荷物を僕に手渡しながら言った。咲いていると言うから花の話題だとはさすがにわかったが、ミモザがどんな花かも知らないし、どこに咲いている花かも知らなかった。戦場に咲く花みたいにロマンチックと言うか、いや逆に悲壮感の象徴みたいなことも考えるから、ご時世柄、ウクライナの話題かと思った。
 ただ、およそ話についてこなそうと思ったのか、女性が僕を誘導して薬局の入り口付近に立った。そして指さしたのが、道路の向こうにある我が家の駐車場だ。駐車場と言ってもイギリス風ガーデンになっていて、小屋もある。その小屋の傍に咲いているのがミモザの花らしい。
 道路を挟んで見たら何か黄色いものがいっぱいついているようにしか見えなかった。僕には花には見えなかった。昨日も一昨日もその下で枯葉を片付けたのだが、およそ目には入っていなかった。明日の朝でもじっくり見てみようと思うが、無知とはこのようなものだ。花も駄目、絵画も駄目、日本の古典芸術も駄目、駄目駄目ばかりの片手落ち、いやほとんど両手落ちだ。
 こうしたちょっとした切っ掛けでゆっくりと小さな知識が増えてくれる。もう少し若い時にもっと感受性豊かに暮らしていたらと思うことが増えたが、ただひたすら懸命に働いていた時代も必要だったのだと、その時期を否定することはできない。生活の糧を得るために避けられない、なおかつ今を保証する時期だったのだから。

 

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