保護犬

 ある女性が母親とともに漢方相談にやってきた。最初に目に入ったのが大型犬を重そうに抱っこしている女性だった。よく抱っこできるのだと思えるほど大きく見えたが、促して床に降ろしてもらったら、怖いくらい大きかった。白色の毛の所々に薄い茶色の模様が入っている。 
 僕の薬局は犬も自由に入ってきていい。拒否する理由は何もない。調剤室以外の場所の薬はすべて包装されているから全く問題ない。むしろ歓迎と言ってもいいかもしれない。 床に降ろされたら犬は自由に薬局の中を動き回った。僕は相談者に集中したからその後どのようにワンチャンが過ごしていたのか分からない。ただ、調剤も終わり服用方法や養生を話し始めたころ、ワンちゃんが僕の相談机にやってきて、背中を向けてちゃんこした。まるで撫でてくれと言わんばかりで、誘いに応じて背中から頭の方を撫でてあげた。とてもきれいな毛並みで大切にされていることがよくわかる。犬に関して知識が少ないから、なんて言う犬種の犬か尋ねてみた。白くて大きいから秋田犬くらいの答えが返ってくると思っていたが、雑種だった。そういえば秋田犬よりかわいい顔をしている。
 犬とともに待っていてくれた年配の女性が、薬の説明が済んだころワンちゃんについて話してくれた。ワンちゃんは保護犬で、生後5か月くらいのころ山に放置されていたのを保健所に連れてこられ、この家族が譲り受けたらしい。何でもこのワンちゃんは、頭がいいのか、リードなしで散歩できるらしい。交差点や車が来た時にはちゃんと止まって待つみたいだ。こんなに大きな犬がリードなしで散歩したら通行人が怖いだろうと思って質問すると、田舎で田んぼが広がっているところみたいだ。
 初めて会った人間に撫でてくださいとばかりに背中を向けるのは、よほど人間に恐怖感を持っていない犬しかできない。捨てられた理不尽さを打ち消して余りあるほどの愛情を注がれていないとできないことだ。親子の愛情の深さを感じる。「とてもいいことをしましたね」と思わず何回か口から出てしまったが、それに対してほとんど反応がなかったのには、余計頭が下がる。二人にとってはごく普通の行動なのだ。
 わずか数分だったがとても幸せな気分になれた。ワンちゃんのおかげだ。飼い主の女性の症状を2週間で改善することができればまた会える。ワンちゃんに会うために頑張るぞ!

この国を悪くしているのは、政治屋、そしてアホコミ   ぜひ以下の文章を読んで真実に近づいていただきたい。

薄ら笑いを浮かべる首相とメディアの共犯性…国境なき記者団の特別報告者が驚いた日本の記者たちの現状
 2021/01/19 08:02
「安倍路線」の継承を掲げて総理に就任した菅義偉氏。官房長官時代の会見では、不都合な質問を封じ、強弁で押し通した。こうした姿勢は総理となった今も続いている。
 権力者と記者との関係の問題点に切り込み、旧態依然としたメディアの体質にも警鐘をならした『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)。朝日新聞政治部記者で著者の南彰氏が、これからの時代のメディアの在り方を考える。(二兎社公演、永井愛作・演出「ザ・空気 ver.3」パンフレットの寄稿を転載・一部加筆)
現代日本の政治権力の品性が凝縮された笑みだった。
 2020年12月4日。首相に就任して初めての臨時国会を終えた菅義偉首相が記者会見を行った。日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を拒否した問題について、多くの学会から任命拒否撤回を求める声明が出ていることを指摘され、「これほどまで反発が広がると思っていたのか」と記者に問われて、次のように答えた場面だ。「これで大きくなるかどうかということでありますけれども、私は、かなり(大きく)なるのではないかなというふうには思っていました」
ああ、ここで笑みを浮かべてしまうのか……。
 菅氏が行った学術会議問題の任命拒否は、日本社会の民主主義を破壊する、政権によるパワハラである。突然、これまでの法解釈に反する任命拒否をしたのに、理由を問われると、「お答えを差し控える」と繰り返す。その一方で、自民党議員などと一緒になって、「既得権益」「非常に質が低い」というレッテルを学術会議に貼り、虚実ない交ぜの学術会議攻撃を展開した。そして、報道機関の世論調査で、任命拒否は「妥当だ」と考える人が増えてきたタイミングを見計らうように、担当大臣から、国から独立した組織への見直しという無理な要求を学術会議に突きつけたのである。そして、菅氏は異を唱える側をあざ笑うような表情を浮かべたのである。
 ここで思い出したのは3カ月前、菅氏が「安倍晋三首相の継承」を掲げ自民党総裁選への立候補表明をした9月2日の記者会見だ。
「不都合な質問が続くと質問妨害、制限が続いた。総裁となった後、厳しい質問にもきちんと答えていくつもりはあるのか」
 官房長官時代の菅氏を厳しく追及し、官邸側から執拗な質問妨害を受けてきた東京新聞の望月衣塑子記者から尋ねられた菅氏は、薄ら笑いを浮かべながらこう返答した。
「限られた時間の中で、ルールに基づいて記者会見は行っております。早く結論を質問すれば、それだけ時間が多くなるわけであります」
 その時だ。なんと、記者席からも笑い声が上がったのである。菅氏の回答には、質問妨害・制限への反省もなければ、今後の公正な記者会見のあり方について語られたものもない。それにもかかわらず、自分の意に従わない記者をあざけるような菅氏の答えに同調する記者がいたのである。そうした帰結が、就任後も記者会見をほとんど開かず、国会でも「答弁を控える」という遮断を繰り返す首相の誕生であった。
 確かに、2012年12月に発足した安倍政権、それを継承する菅政権に、「報道の自由」を尊重する謙抑さはない。
 初めての衆院解散に踏み切った2014年の衆院選では、TBS系の「NEWS23」に生出演していた安倍氏が、「おかしいじゃないですか」と街頭インタビューの市民の声を批判。その直後、自民党はテレビ局に対して選挙報道の「公平中立」を文書で求め、アベノミクスの現状を検証したテレビ朝日系「報道ステーション」にも文書で注文をつけた。
 人事の影響力を行使できるNHKに対しては、のちに「沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん」と自民党の勉強会で講演する作家の百田尚樹氏らを経営委員に送り込み、就任会見で「政府が右ということを左というわけにはいかない」と表明するような籾井勝人氏を会長に据えた。2016年になると、総務大臣が、政治的な公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に「停波」を命じる可能性に繰り返し言及。その年の春、政権への直言で知られた「クローズアップ現代」「NEWS23」「報道ステーション」のキャスターが一斉に退いた。
 2017年に首相周辺の疑惑である森友・加計学園問題が報じられると、首相と交友のあった文芸評論家が「戦後最大級の犯罪報道」と追及するメディアの報道を中傷する本を出版し、自民党が研修会などで配った。
 この間、国境なき記者団が毎年発表する「世界報道自由度ランキング」は大きく下落し、国連で「表現の自由の促進」を担当する特別報告者のデービッド・ケイ氏は2017年6月、次のような日本に関する報告書をまとめた。
表現の自由が重大な圧力の下にあるとの懸念や不安を共有した。特にメディアの独立、とりわけ調査報道にコミットした公衆の監視機関としての役割について、懸念が広がっていると感じた」
 しかし、日本のメディアが直視していないことがある。ケイ氏が報告書で指摘したメディア自身の問題点だ。
記者クラブの不透明で閉鎖的なシステム」「首相や官房長官とメディア幹部の会食」「ジャーナリストの連帯の欠如」――。
 調査に立ち会ったメンバーによると、ケイ氏は当初、日本のメディア関係者が、逮捕や殺傷されるという直接的な攻撃がなされていないのに「忖度」「萎縮」と語る状況について理解できない様子だった、という。そして、報告書でこう指摘した。
 「訪日で最も驚いた特徴の一つは、面会したジャーナリストが、秘匿性を求めたことである。彼らは、声を上げたことに対して、経営陣が報復し得ることへの恐怖について述べた」
 メンバーが限られた「記者クラブ」を足場に、権力者とメディア側が相互承認を重ね、おかしいと思うことにきちんと声を上げない。「ザ・空気」シリーズで劇作家の 永井愛さんが投げかけてきたものに通ずる、日本のメディアコントロール、権力とメディアの関係の実相である。
 官邸の質問制限問題をめぐり、新聞労連などが2019年、官邸前で抗議集会を行ったときにも、多くのメディアの先輩から「やめておいた方がいい」と言われた。最終的には、現役の新聞記者7人がマイクを握り、集まった600人を前に現状への危機感を訴え、ケイ氏は新たな連帯を「歓迎する」と表明した。しかし、日本のほとんどのテレビ局はこの様子を報じることすら許されなかった。
 2020年5月には、恣意的な定年延長という疑惑の渦中にいた検察幹部と新聞記者が「賭け麻雀」を重ねていたことが発覚。信頼が失墜したが、メディア側は、きちんとした決別ができずにいる。
 暗澹たる気持ちになるが、希望の光はある。
 2018年4月の財務事務次官セクシュアルハラスメント問題以降、社の枠を超えた女性記者のネットワークができた。泣き寝入りを強いられてきたセクハラの問題に限らず、いまの日本メディアが抱えている構造的な問題に切り込んでいる。テレビの報道番組などにたずさわる有志が立ち上げた映像プロジェクト「Choose Life Project」も市民の後押しで育ちつつある。官邸記者クラブの中でも有志の記者が、今までの慣行を見直そうと動き出している。
コロナ禍を受け、既存メディアも再編に突入する。
「メディアをうらむな。メディアをつくれ」
 政治とメディアの暗部を描き出した「ザ・空気」シリーズ第2弾の最後のセリフ 。私たちはいま、その渦中にいる。