再確認

 僕みたいに極端な機械音痴にとって今日のその人は正に地獄に仏だった。こんな良い偶然があるのだろうか。僕にとっては記憶に残る良い偶然の筆頭のような気がする。  同じ失敗をもう4回繰り返している。最初はセルフのガソリンスタンドで。2回目はコンビニの駐車場で、3回目は近所のガソリンスタンドで。そして今日は我が家の駐車場で。これだけはっきり覚えているのだからそのトラブルが起こった時は相当の慌てようだった事がわかる。事実かなりパニック状態になる。  どの車でも同じなのかもしれないが、車を止めてからギアをパーキングに戻す前にエンジンを切ってしまうと、もう車を降りれなくなる。警告音が鳴り続けるから。そこで当然ギアをパーキングに戻し再始動を試みるのだが全くエンジンのかかるそぶりはない。最初の無人のガソリンスタンドとコンビニの駐車場での出来事では、パニくりながら訳も分からず挑戦していたら偶然始動できた。近所のガソリンスタンドの時は、さすがにプロですぐに教えてもらい再始動できた。ところがプロに指導された方法を覚えていなかったので、今朝はかなりうろたえた。と言うのは、高松に太鼓のコンサートを聴きに行くためにかの国の女性たちの寮に7時50分に迎えに行くと約束していた。約束の20分くらい前に何となく持って行く薬を整理していたら、時間が迫ってきて、急にエンジンを切って不足の薬をとりに帰ろうと思った。すると車を完全に停止することが出来なくなり、うろたえた。最初は先日ガソリンスタンドで教えてもらったことを少しは覚えているような気がしたから、記憶に従って挑戦してみたが全く動き始める様子がない。時間だけがいたずらに過ぎ去るから、珍しく説明書なるののを取り出してみたが、何処にそんなことを書いてあるかが分からなかった。もうこうなると朝早いが、販売会社に電話して教えてもらうしかない。そこが通じなければ車検をお願いしている会社にしようか思案しながら車から降りると、何と20メートルくらい先を正にガソリンスタンドの男性が歩いていた。彼がそんなところを歩くのも見たことがないが、偶然今朝が牛窓町を上げてのクリーン作戦の日だったのだ。総出で片付けなければならないほどゴミはない。だがまじめな彼は買い物のポリ袋をぶら下げてゴミを見つけるべく歩いていた。  その彼を見つけたときの僕の喜びようは想像できると思う。ぎりぎりセーフで宇野港に着けるだろう。案の定彼の的確な指示ですぐに直って寮に直行した。なんていう偶然なのだろう。恐らく多くの要素が重なってこんなよい偶然を起こしてくれたのだろうが、原因の1つは数年前に、行きつけのガソリンスタンドを変えたことだろう。それまで何十年も農協にしていたが、農協が合併されてから、町内の勤務者が少なくなり、顔見知りが我が家の担当にならなくなった。個人的なつながりを重きにおいていたが、今では町外の見ず知らずの人が頻繁に交代してやってくる。ロボットでもいいようなものだ。そこで今お世話になっているスタンドに変えたのだが、それが効を奏したと思う。何かに付け、合理性がもてはやされるが、それは支配階級にとっての必要で、支配される側には息苦しいものだ。ちょっとしたことで大きな救いを得られたのは、地元の人たちとの付き合いを重視していたためだ。そのことを再確認させてもらったスリリングな教訓だった。