幻想的

 今朝、僕はとても幻想的な世界に包まれた。一瞬何処にいて何を眺めているのだろうと思った。いつもと同じ場所にいて、いつもと同じようにしているのに。  ウォーキングをしている途中、上空を飛ぶ羽音が聞こえたのですぐに見上げた。すると白色、厳密に言うとグラーに近い色をした大きな鳥が僕の頭の上を飛んでいった。一瞬僕の大好きな鷲に見えたが、その飛び方で違うことはすぐに分かった。頻繁に羽ばたいて視界から消えていった。あっという間の出来事だった。大きさや色から鷲に見えたのだが、それはカラスだった。  今朝は霧がかなり深かった。だから山も建物も、全体的に白色がかかって見える。そのことを思い出した。さっきのカラスも景色と同じように、単に白く見えただけなのだ。それを下から見上げたものだから、何か特別なもののように見えてしまったのだ。見上げれば当然霧しか見えない。霧のキャンパスの中を白いカラスが横切って飛んでいった、単なるそれだけのことだが、こんな光景は見たことがない。  理屈が分かればこちらから対象を探すことが出来る。我が家には今、階段の踊り場と店舗の庇の2箇所にツバメたちが巣を作っている。だからツバメが飛ぶのを見るのは簡単だ。そこでウォーキングを早めに切り上げて薬局の駐車場まで帰ってきた。すると案の定ツバメ達は餌探しに忙しく飛び回っていた。霧の中から現れた瞬間はやはり白色に近いグレーだった。そして僕に近づくといつもの黒色に変わる。あの三角のツバメがグレーに見えるのもまた興味深かった。  今までは霧の景色を見ることはあったが、霧が作り出すものにまでは目が行かなかった。単なる偶然から発見した幻想的な映像だったが、夜のこの時間でもはっきりと瞼の中で再生できる。こんなたわいもないことに感動し1日を終えることが出来た。僕の人生が色彩を捨てて、山水画のように枯れ始めたのだろうか。いやいや僕には次の舞台の幕開のように思えた。