緊張

 夕食が終わってから、薬局のパソコンを使わせてくれと言うから、何に使うのかと思ったら、課題発表の為にパワーポイント用の資料を作りたいそうだ。パワーポイントで学生が発表すると言うことに時代を感じたが、その資料を我が家のパソコンで作ると言うから驚いた。と言うのは、今やあらゆるところでパワーポイントが使われ、それを見るたびに、講演者本人の能力かスタッフの能力を尊敬していたものだ。よくあんなものが作れるものだと。  あんなことが出来ると便利だろうなと思っていたが、所詮高嶺の花で関係ない世界のことと思っていた。ところが次女と三女が宿題の発表で使うパワーポイント用の資料を我が家のパソコンで作ると言うから驚きだ。なんて能力があるのだろうと思った。後進国から来ている二人は完全に僕を越えている。興味があったので後ろから覗いていた。すると最近買い換えたパソコンはちゃんとパワーポイントが使えるようになっているらしい。それを見つけるとすぐに作業を始めた。  マウスを器用に動かして表紙を作ろうとしていた。デザインも簡単に出来ると見えて、せわしなく動かしているマウスが形を仕上げていく。そして格好いい表紙ができて後は表題を入れるだけだ。  二人の発表の内容は日本人の自殺に関するもので、どうしてこんなに自殺する人が多いのだろうという疑問に答えてくれるインターネット上の答えを探していた。そして、あわよくば格好いいタイトルも探してコピーしようと思っているらしい。  寒い薬局の事務所で頑張っている二人の為に、温かい牛乳を作ってあげようと2階に上がった。思えばこんなことをするのは20年ぶりくらいだろう。2度目の子育てみたいなものだ。僕のを含めて3人分のコップに入った牛乳を持って降りると、タイトルが決まったらしくて枠の中にきれいに収めていた。「おとうさん、どうですか?」と尋ねられたので目を近づけてみてみた。すると幾何学的な緑の枠の中に、はっきりとタイトルが浮かび上がってなかなか旨いものだと感心した。ただしタイトルは最初から拝借するつもりでオリジナルではない。タイトルを確認すると「1日100人自殺する自殺大国の日本がマジ笑えない」だった。おかしいと言うより慌てた。彼女達にとって語呂がよかったのか、それとももっと正当な理由があってこのタイトルを拝借したのか分からないが、とても若い女性が演壇に立って発表するときに使う言葉ではない。このマジの意味を教え、品を落としかねないから使うべきではないと助言した。  日本語もよく勉強しているからかなりのことは理解できるが、こうした落とし穴は必ずある。それに落ちることが外国人にとっては愛嬌だが、学習発表会の場ではさすがに使えない。二人といるといつも笑いが耐えないのだが、さすがにこのマジのコピペにはマジ緊張した。