安全

 昨日の津山での出来事。来日してまだ1か月ちょっとのかの国の女性に思いもかけぬ素敵な体験をしてもらえた。  津山城天守閣を失っているから、わざわざ訪ねる意味を感じていなかったが、第九のコンサート会場のすぐ隣だから、時間を潰すのにはもってこいだった。駐車場が一杯になったら、土地勘が無いため代替の駐車場を探すのに苦労するから、何処の会場にも早く行くように心がけているが、そして到着してから開演までの行動もおよその計画は立てているのだが、津山城は「仕方なく」の選択だった。案の定、石垣めぐりをしたようなもので、辛うじて残っていた色あせた紅葉を彼女達がことのほか喜んでくれ面目を保つことが出来た。写真大好き人間達だから、服を脱いだり着たり、かばんを持ったり置いたりと、あらん限りのポーズを繰り返す。  そんな写真好きが災いして、城から降りがけになって、一人の女性が慌てて走り出し、紅葉があるほうに消えていった。そこには公衆トイレもあったから、そちらの動機かと思っていたが、残りの3人も何故か落ち着きが無い。昨日の4人は3人が今年の秋に来日したばかり、1人は1年目で意思の疎通が難しいので、あえて僕は尋ねなかった。すると丁度その時に「ハンドバックを預かっていますから心当たりがある方は受付までお越しください」と言う場内放送があった。勿論彼女達にも聞こえているが意味が理解できなかったみたいだ。たださすがに僕はピンと来て、彼女達にジェスチャー交じりで確認した。すると一瞬にして顔に笑みがこぼれ、紅葉がある方向に走り出した。4人で帰って来たときにはうって変わって明るい表情を全員がしていた。  受付で、落とし主の名前を尋ねたが、名前を名乗らなくてただ持ち主に返してくださいと言われただけだったらしい。なんて格好いいのだろうと思ったが、ここで日本の安全性を自慢したくなるのを抑えた。彼女達が日本で3年間働いて一番日本を好きになる理由は「安全」だ。そのことを知っているから、つい自慢したくなるが、その自慢もいつまでも通用するものでないことは日々のニュースや日常生活の中で分かる。どこかのお偉いさんの意図で「安全」を故意に強調しているのかと思うようなことに加担したくない。福島がアンダーコントロールと今世紀最大の大嘘つきは別として、日常でも欺瞞や危険は溢れている。偶然遭遇しなかった幸運はそれぞれだろうが、国中の不幸を集めれば決して自慢できる国ではない。ハンドバッグは返ってきたが、殺人や強盗や詐欺など不正義が横行している。政治屋や役人の金持ち優先の凶行は着々と進んでいるし、新しい士農工商も進んでいる。安全と言う国際的な評価を勝ち取った庶民の力は評価されずに、その純朴な良心の持ち主達を食い物にする奴らがいい目をする。  落としたハンドバッグが返ってきたことを目の当たりにした彼女達には、来日前から聞いているだろう「安全」をいみじくも体験できたが、それは庶民が営々と築いてきたものだ。お上から降って湧いた様なものではない。そこのところこそわかって欲しい。