一途

 今月4人の女性が3年間の実習生としての仕事を終え帰国する。このタイミングで必ず行われることがある。国への土産として日本の薬を持って帰ることだ。数年前までは、いわゆるドラッグストアで売っているサロンパスみたいな有名OTCだけだったが、今はほとんど僕の薬局で調達する。今はほとんどの人が治療目的のものを持って帰る。親や兄弟、それに親戚、果ては近所の人のものまで頼まれるが、通訳を介しての問診だから、情報不足を補うべく知識を総動員して真実に迫らなければならない。結構大変な作業だ。寿命がまだまだ短い国だけあって、中年が日本の老人みたいなことを訴える。病院に継続してかかっている人はまれで、治療と言う治療をしていないのか、僕の選ぶ薬は神業のごとく効く。だから逆に不可能と思われるようなものまで頼まれる。  日本にいる人なら2週間毎に薬を作り直すということが出来るが、かの国の人にはやり直しはきかない。一発勝負だ。なるべく沢山のお金を国に持って帰って欲しいから薬は原価で渡しているが、それでも効かない薬は渡したくない。このところ思案の日々が続く。  昨夜通訳と話していて面白い話を聞いた。僕が漢方薬をしばしば作るので、最近になって初めて漢方薬がどんなものか分かったみたいだ。かの国の漢方薬は、薬用になる木を農家の人が切って、それをお寺にもって行き、病気の人に無料で配るらしい。ただそれだけのことなのだ。薬が買えない、病院にいけない人がまだまだ沢山いて、そうした人にお寺さんが施すらしい。「でも、効かないです」と笑っていたが、それでは無理だろう。実際、昨年帰ったある女性の母親が若くして癌で死んだが「バナナを毎日食べさせてあげた」と言っていた。バナナが癌の薬だったのだ。  「オトウサン ナニヲカンガエテイマスカ?」話が中断して少しの沈黙があればこのように尋ねられる。いつも心の底から笑っていたいが、僕がなすべきことが、話の内容から少しずつあぶりだされてくると、隠している真顔が不覚にも覗いて来るのかもしれない。真剣なまなざしで親の病気を伝えようとする一途に、僕は心を動かされる。