立場

 日本では、大物女優や大物歌手が元主治医と結婚したなどという話をよく聞きますが、カナダでは資格統括機関(薬剤師なら、いわゆる薬剤師会)の倫理法が、患者と医療従事者との関係が恋に発展することを厳しく注意しています。また、こういったケースの恋愛はカナダではまずありません。なぜなら、患者は医療従事者の指示に従って治療に専念しなければならず、患者と医療従事者の関係は明らかに上下関係が出来上がっています。そして、その時点で平等な関係が成立し得ず、不平等な関係において発展した恋は成立すべきではないという理論です。これは教師と生徒、上司と部下においても同じことがいえます。こちらカナダではこの点を厳しくチェックしているのです。関係の上位者がこの立場を利用すべきではないという考えなのです。

 これはカナダで薬剤師をしている日本女性のレポートの一部だ。薬剤師向けの雑誌に載っていた。自由すぎる白人社会でこのような規律が機能しているのは意外だが、それこそ意外と白人のほうが潔癖なところは多い。日本人の優位性など自国の宣伝文句だけのことが多い。このところやたらマスコミで流れる優位性は、裏返せば劣等感の始まりだ。落ちていく人や国が使う常套手段だ 。威勢のいい言葉や慇懃な言葉はあまり信じないほうがいい。隠されているものを嗅覚鋭く嗅ぎ当てるべきだ。  牛窓に帰ってきて果たして何人の人を薬局で応対してきたのか分からないが、人と接する仕事だから多くの人格と接してきた。その中には当然はっとするような素敵な人格の人もいて、おのずと尊敬する人もいた。田舎の薬局だから、うれしいことにその逆の人はほとんどいなかった。ひょっとしたら片手で数えられるくらいかもしれない。人格紳士には何気ない仕草の中に学ぶものも多いし、人格美人には又会いたいと思う。しかし、カナダのような戒律があるわけではないが、仕事が仕事だけに感情は出さない訓練は出来ている。それは誰もが身につく癖だと思う。単純に褒めてあげたいなと思うときにも抑える癖は身についている。40年近く多くの人々と心が触れ合えたのは幸運だと思う。