名刺

 マザーテレサの名刺の裏には「沈黙の実りは祈り 祈りの実りは信仰 信仰の実りは愛 愛の実りは奉仕 奉仕の実りは平和」と書いていたそうだ。インド人の神父様が教えてくれたから、ひょっとしたらインドで実際に会ったことがあるのかもしれない。同じ空気を吸っていたのかもしれない。  僕の宗教は底が浅いから偉そうなことは言えないが、沈黙とか愛とか奉仕とか平和は、誰にだって腑に落ちる言葉だろう。究極の目的である平和へ至る道のりの最初が「沈黙」であることを指摘できる人はそんなにはいない。僕ら凡人には意外にすら思える。むしろもっと動的で熱情的で扇動的なものこそが平和へ導けそうだが、マザーテレサはそうは思わなかったのだ。むしろそうしたものが如何に嘘っぽいかを彼女は見抜いていたのだろう。  きな臭い日常に回帰したいやつらばかりが目立つ時代に、小さな名刺の裏に書かれた言葉が輝く。本物を見抜く作業すら試みない人たちの道連れにだけはなりたくない。落ちるなら勝手に落ちて。失うなら勝手に失って。悲しむなら勝手に悲しんで・・・僕は誰も傷つけずに笑っていたい。