目論見

 表面上は無関心を装っていたが、実は結構関心を持って見守っていた。あわよくばと言う身勝手な発想で、どう見ても正統性はないから公言できる代物ではなかった。案の定、問屋が卸さなかったから、ひと時の夢で終わった。  娘夫婦は車で30分くらいかかるところから仕事に通ってきている。さすがにそれが無駄に思えたのか、疲れだしたのか、牛窓に住みたくなったのか、やっと家を探すことになった。不動産屋さんがしきりに物件を紹介にやってくる。聞き耳を立てるのではないが、聞こえてくる内容から、なかなかよい物件はなさそうだ。ところがつい最近、娘夫婦も触手を動かされるような物件を紹介された。築35年のペンションだ。僕が牛窓に帰った頃丁度ペンションブームで、僕とオーナー達は期せずして同じ頃牛窓に住み始めたことになる。(勿論僕はUターンだが)だから、僕は多くのペンションのオーナーと交流があった。売り出しているペンションも知っていて、いわゆるペンション村全体の風景もよく知っている。ここが牛窓かと言うくらいきれいな眺めだ。娘達もそこが気に入っているのだろう。  僕のひそかな目論見は、10部屋もある家のつくりだ。キッチンもダイニングも広く、風呂は二つある。それをただ住むだけに使うのはいかにももったいない。以前息子達が同居するまでは、多くの患者さん達を迎えていた。主に過敏性腸症候群のガス漏れの人達だったが、一緒に数日暮らしてみて悩みなどを聞きつつ、漢方処方を考えていた。3年前から三階の部屋を使うことが出来なくなり、それからは誰も受け入れていないが、もしペンジョン跡を使うことが出来れば、3年前より患者さんは、数段気持ちがが休まるだろうと思ったのだ。整った個室から見下ろす穏やかな瀬戸内海は、どれだけ心を癒してくれるだろう。気持ちが落ち着き、病気から脱出できるまでいてくれてもいい、そんな建物が欲しかったのだ。  昨日、決断を迫って電話をくれた不動産屋さんに娘が断っているのを聞いて、かすかな望みが断たれた。35年経っているから修繕費がかさみそうなのと、隣の同じく廃業したペンションが廃墟みたいになっているのがネックだったみたいだ。お金の援助をすることが出来ないのに、皮算用だけして、それでなぜか充実した数日だった。僕はやっぱり人を治すのが好きだし、そのためには出来る限りのことをしたい、そんな田舎の人間なのだ。自信を持って自分を善人などと呼べないことを断言できるが、よいことなら総動員して治ってもらうと言うスタンスが好きだ。  目論見は失敗に終わったが、今回のことは参考になった。ありふれた表現だが、勝手に「いい夢を見させてもらった」