移住

 二組の家族が牛窓に住みたいから、家を探している。何か良い情報はないですかと、その二組の知り合いから頼まれた。この町にとってはとてもよいことなので喜んで協力すると約束した。早速僕は来る客来る客、空き家の情報を持っていないか尋ねた。当然過疎地だから全国に負けないくらい実際には空き家は多いのだが、具体的な情報はなかなか集まっては来ない。幸い僕は薬局に来る人とはとても親しいので、誰もが親身に相談に乗ってくれる。その中でもかなり希望に沿えるものを紹介してくれた母娘がいる。漢方薬を作る前に体調の話しどころではなくなって、考えた挙句条件にうってつけの2軒の家を思いついてくれた。僕もその親子も同じ部落に住んでいるのだが、やはり土着の人の情報量はすごい。言われて初めて気がつく物件だった。しばしばその前は通っているのだが、家人が既にいなくなっていることには気がつかなかった。  そこで早速僕の部落の一番の世話係に相談した。すると彼もまたよい事だからと言って家主にあたってみると言ってくれた。それどころかもっといい物件をも紹介してくれた。そこもついでに当たってみると約束してくれた。そしてなんと翌日には貸してもいいと言う家主の承諾も得てくれた。  結局、僕が頼まれてからわずか3日で段取りの全てが終わった。後は家主と借り手との交渉だ。僕の役割はほぼ終わった。この一連の流れを見ていた娘が「上手くいく時は上手くいくもんじゃなあ!」と言ったが、そうではない。最後にあの世話役が登壇したからこんなに簡単に話が進んだのだ。彼がいなければいつものように四苦八苦していただろう。情報を集めるだけで終わっていたかもしれない。やはり彼が信頼されているから、家を貸したこともない人が決心してくれるのだ。なかなか経験がない人にとって家を貸すことは敷居が高いが、それを低くするだけの信頼を彼は勝ち得ている。それ以外に今回のとんとん拍子は考えられないのだ。  今まで数組に牛窓に来てもらったが、僕の限られたネットワークが偶然上手く機能しての結果だ。だが今回頼んだ彼は僕どころのネットワークではない。実力があるのにそれを微塵も見せない、何処にでもいるようでどこにでもいない人物にこれからは相談を持ちかけて、もっと多くの移住希望者を受け入れようと思った