専売特許

 折角のよい天気もそろそろ崩れて、今週は曇りや雨が続くと気象予報士が伝えていた。テレビの天気予報を見ていた妻が「もうこれ以上雨は要らんのになあ」と言った。その自然に出た言葉が僕には印象深かった。岡山市内の、およそ農業などとは無縁の地区で育った人が、30年以上田舎で暮らすと、農業で生計を立てている人たちの専売特許みたいな言葉を口にするんだと思ったのだ。  雨が降って欲しくないときに、「雨はいらない」と言うことはあるが、「もうこれ以上」はなかなか普通の人はつけない。「もうこれ以上」をつける人は、雨の恩恵を受けていることを知っている人に限られる。雨は恩恵と言う染み付いた考えがない限り「もうこれ以上」はつけない。牛窓はもともと漁業と農業が盛んなところだから、薬局にも多くのお百姓さんがやってくる。だから自然と天気の話題になることが多くて、僕ら素人でも雨が少ないとか多すぎるとかの大体の判断は出来るようになる。だから妻はこれ以上降ったらお百姓さんが困ると判断して、「もうこれ以上要らない」と言ったのだろう。  腰や膝を一様に痛め、それでも懸命に働き続けるお百姓さんの視点で、雨の降り方を評価した姿は、この町で過ごしたおかげだ。懸命に頑張っている人たちに自然体で寄り添える幸せを感じる。同じ土地で暮らす者同士の一体感を感じる。とってつけたものではなく、自然に口から出てしまうくらいの一体感を感じる。  ふと漏らした言葉の中に見つけた郷土愛だった。