お辞儀

 そもそも薬局に回ってきてくれるセールスの礼儀作法は平均よりかなり上だから、それ以上究めてくれなくてもいいと思うのだが、誰がいつ始めたのか、最近では用事が済んだときに挨拶し、出て行くときに振り返り又挨拶してくれる人が増えた。この光景で僕がすぐに連想するのは、新幹線の車掌さんの挨拶だ。彼らは車両から出て行くときに必ず振り返りお辞儀をする。いつからああいったことを取り入れたのか知らないが、僕は決して見ていて心地よくは感じない。自分がそこまでしてもらうほどの人格者ではないから、気恥ずかしいのだ。一杯の乗客の中の一人の立場でもそう感じるのだから、薬局にいるときなどなおさらだ。用事が済んだときのごく当たり前の挨拶でセールスの人柄くらい十分判断できるから、できれば出口での2度目の挨拶は省いて欲しい。もうどのセールスが2度挨拶をするか分かってしまったから、出口まで彼らが行くのを見送らなければならない。もし僕が引っ込んでしまうと、彼らは誰もいないところに向かってお辞儀をすることになる。そんなことはさせれない。  薬業界だけでなく、他の分野でも同じようなことが浸透しているのかどうか分からないが、とってつけたような度が過ぎた礼儀を一般化すべきではない。人はみな平等なのだ。ただの人が儀礼だと分かっていながら2度も頭を下げられる必要もないし、ただの人が思ってもいない行動をする必要もない。何事もほどほどがいい。