歯磨き

 歯磨きのコマーシャルで聞き捨てならないフレーズが用いられていたので紹介するが、恐らくこの手のものは朝から晩まで氾濫しているのだろう。気をつけて聞いていれば不愉快きわまるものや、論理的でないものまで枚挙にいとまがないのだろうが、それが問題にならないのは如何に皆が聞いていないかだ。巨額の経費をかけてのコマーシャルも、実は自己満足の代物かもしれない。  宣伝している歯磨きを使うと歯が白くなるとでも言うのだろうが「これで人前で思いっきり笑うことができる」とタレントに喋らせているのだが、「白くなければ人前で大きな口で笑えないのか!」と反射的に僕はすぐに思った。「それなら虫歯で歯が欠けている人間も人前で笑ってはいけないのか!」とか「八重歯で歯が出たり入ったりしていたら人前で笑ったらいけないのか!」とか、いくらでも反発したくなる。歯槽膿漏や入れ歯はどうなんだと段々エスカレートしてきそうだ。  コピーライターなるものが突如現れた時代から、言葉だけが先行し、実態なんてどうでもよくなった。格好悪くても実用的でなくても、言葉一つで価値が変わる。実態より言葉のほうが優先するなんて全く軽薄な世の中になったものだ。企業の製品の売り込みは全てそうだし、より悪質なのは、政治屋がキャッチコピーに浮かれて、何にも責任を取らない役人の小間使いみたいに成り下がっていることだ。選挙前の言葉など、何の意味も持たない。少しでも良心とやらがあれば心神喪失にでもなるだろうが、あいつ等に限って図太いから精神も病まない。逆になんら悪いこともせず、どちらかと言うと懸命に働いている人達が心を病んでいる。これでは余りにも割に合わない。割に合わない人たちが団結すれば割に合う人生が送れると思うのだが、割に合わない人たちは欲がないのかお人よしか、割に合う立ち位置を得ようとはしない。このまま虐げられた人生を送るのか。もっともっと落ちていって、どうしようもない不運を背負わされる姿が僕には見える。