格差

 シフト自由 日払いOK 面接者全員に2000円 面接時履歴書不要 入社お祝い金も・・・こんな言葉が並び、若い可愛い女性が数人でVサインしていたら、僕でもアルバイトしようかと言う気になる。いつからこんなにアルバイトがもてはやされているのか知らないが、疑い深い僕は、にわかにはこれらの言葉を信じがたい。  心地よい言葉の裏には何か魂胆があるだろうと疑うのが本来の日本人だ。政治も経済も教育も、何もかも受身になって久しいから、胡散臭いものをかぎ分ける嗅覚をなくしてしまった日本人が多いが、僕はそこだけは退化させていない。  かの国の女性二人のために、得意ではないパソコンを駆使して、やっと二人の働く場を見つけた。恐らくその間に僕の、アルバイトを血眼で捜している人間という情報がパソコンを通じてあるアルバイト斡旋会社に行ったのだろう。数日後からしきりにアルバイト情報が入ってくる。冒頭に記した心地よい誘いのメッセージとともに。  何も持たずに面接会場に行くと2000円がもらえて、自分の都合の良い時間だけ働くと告げて、お願いしますといえば祝い金までもらえる。アルバイト代はその日のうちにもらえるから、遊ぶのにも苦労しない。健康だったら何とかやっていける。ひょっとしたらアルバイトをするよりも、毎日面接荒らしをしたほうが儲かるかもしれない。  まるで安易の安売りだ。いや安易の垂れ流しだ。最初から使い捨てにする魂胆が見え見えだ。苦労を買ってでもするような青年を求めればいいのに、苦労を売ってでも遊びたい人ばかりを選択して募集している。耳元で甘い言葉をささやかれている間に、取り返しのつかないほどの格差が広がっている。経済だけではなく、人間としての尊厳の格差も。