土葬

 台風が、自分が住んでいる所の西を通るか東を通るかで、影響は数段の違いがある。 今日は牛窓の東を通ってくれたから、まずまずの影響ですんだ。床下浸水した地区もあるがおおむね幸運だと言ってよいと思う。 ただ気はかなりもんだ。10時前の満潮の時には、駐車場の傍を流れる山からの小さな川、それは普段、水深が数センチでしかないのだが、恐らく2メートル近くなって、道路からわずか15cmの所まで迫っていた。駐車場のフェンス越しに眺めていると、時には川下に、時には上流に向かって流れを変え、一進一退だった。恐らく水門を閉めてポンプで水をはかしているのだと思う。ポンプが勝てば何も起こらず、ポンプが負ければ、一帯が軒下まで浸水の被害に会う。我が家は違うが、すぐ近くの一帯はそうした低地だ。  雨がかなり激しく振る中、一人フェンスにもたれて川を眺めていた僕を見つけて、一人の消防団員が近づいてきた。今朝の4時に召集を受け、以来あちこちの警戒に当たっているらしい。丁度その4時は県内で牛窓が一番雨量が多かった時間らしく、2時に寝たのに4時に起こされたと言っていた。ただ僕はそれをねぎらうことはしない。彼は結構ハイで、たまの活躍を楽しんでいた。「たまにはこんな緊張感もいいなあ」と彼自身も分かっている風だった。  小川、コンクリートで3方を固めているから用水路と言った方がいいかもしれないが、は山から土をいっぱい溶かして運んでいるから、茶色に濁っている。それを見ながら消防団員の彼が言った。「ここにうなぎを取る筒を仕掛けたいわ。絶対いっぱい獲れるよ」なんでこんなに汚い、流れの急なところで獲れるのかと尋ねてみると、山からミミズが流されて、それをうなぎが追いかけてきて食べるのだそうだ。だから「今夜は中銀の前の入り江に人がいっぱい集まるよ」と教えてくれた。中国銀行の前の入り江はそうした小川が何本か集まっているらしい。地元の僕でも知らないことだ。「○○君、今夜まで待たずにすぐ帰って仕掛けをもってきたら?」と提案すると、「さすがに、今日は消防団で出ているからためらうわ」と言っていた。と言いながら「天然のうなぎで、こんなに大きいのがいっぱい獲れるんよ、1本3000円よ」お互い台風警戒よりも、そちらの話題に力が入る。海の恵みに詳しく楽しんでいる彼は「牛窓に済んでいたら仕事以外が忙しいのなんのって」と笑いながら困っていた。  もう30年以上前に、それこそ今だ経験したことがないような大雨を経験したことがあり、僕は雨に関する危険の判断基準をあのときの経験に置いている。それを彼に切り出すと、今日の雨でも崩れたところがあると教えてくれた。それは同じ地区の砂利会社の裏山で、急斜面もいいところだ。その通報を受けて駆けつけて彼も手伝って土砂を取り除いていたらしい。すると作業中の彼の前に土砂が再び崩れ落ちて、危機一髪だったらしい。そのときの様子を彼が教えてくれた。「もう少しで土葬にされるところだった」