屋島

ついにこの時がやってきた。待ちに待っていた瞬間だ。屋島の展望台の辺りのベンチでそれは突然訪れた。 7人のうちの2人が少し疲れたのか、ベンチに腰をかけた。隣のベンチには、僕よりは少し上に見える男女3人がいた。にぎやかに話すかの国の女性たちが気になったのか、その中の1人の女性が「中国の方ですか?」と尋ねた。そこで僕は自分の胸を指で押さえながら「ホーチミンホーチミン」と繰り返した。すると女性は「ベトナムの方ですか?」と納得した。そして少し間をおいて「ベトナムも大変でしたね」と言うから「ナゼデスカ?」と少し訛って答えた。すると女性は「30年前にアメリカと戦ったんでしょう」と答えた。この30年は直しておいたほうがいいから「40ネン」と答えた。「なんでも今までアメリカに勝ったのはベトナムだけらしいよ」と女性は仲間に知ったかぶりを発揮していた。「ワタシタチ イマ チュウゴクとタイヘン」「島でもめているんでしょう?」「ニホントオナジ」「ところで今日は何しに来たんですか?観光?サイトシーイング?」「チガイマス ワタシタチ ジッシュウセイ ハタラキマス」 どうやら僕をかの国の人間と思ってくれたみたいだ。よく外国人のコントをするときに聞いていたどくどくの言い回しを真似したのだが、結構僕を信用してくれた。してやったりだが、よく考えてみたらこんなに整った顔のかの国の人間がいるはずがない。