国家試験

 本当に申し訳ないと思う。もう40年近く前だから時効だろうが、こんなニュースに触れると当時の学生を代表して謝りたいくらいだ。正確に言えば、当時の学生の一部を代表して、いや半分くらいを代表して、いや7割はそうだったかな。 薬剤師の国家試験の発表があったらしくて、なんと6年制になって私立の薬科大学や薬学部に入学した人のほとんど5割近くが、薬剤師になれなかったみたいだ。途中で留年して力つきた人と、国家試験に合格しなかった人を合わせた数字らしいが、とてももったいない。6年という歳月と授業料、生活費を合わせると、いや歳月はお金には換算できないから相当の損失だ。気力も知力も体力も充実した時期を無にするのは忍びないだろう。本人は勿論、経済的に支援した親も大変だ。恐らく夢物語を人参にして多くの受験生を集めたのだろうが、経営者側の無責任が甚だしい。もっとも、外国人留学生をまるで「輸入」するようにして集め、授業料を「集金」する大学も多いのだから、根っこは同じだ。所詮、会社?企業なのだ。  僕は、僕の先輩や後輩達は、4年制大学の時代だが、念には念を入れて5年ないし6年大学に通った。いや大学の食堂に通った。一部の優秀な学生が授業を受けている間、学食でタバコを吸ったり、90円の定食を食べていたりした。一部の優秀な学生が午後から実験をしている間、柳ヶ瀬に出かけ、ロックミュージックがかかる喫茶店でコーヒー1杯を注文し、文庫本を読み、その後数時間パチンコに興じた。夜にはアパートの一室に集まり明け方近くまで麻雀をした。  今の学生にとってみれば嘘のような話かもしれないが、事実なのだ。かなり多くの学生がこの程度の学生時代を送っている。僕が極端に劣っていたのではない。僕の大学の学生はかなりの人が医学部の受験で落ちた人だから、第一志望の学科でない内容を学ぶモチベーションを失っていたのだ。いわば抜け殻みたいな人間の集まりだった。それでも昔取った杵柄で5年も6年もダラダラと暮らしていながら、国家試験などは2ヶ月も集中して勉強すれば通るのだ。薬学を理解しているのではない。集中力とテクニックで合格するだけだ。こんな人間が上手く免許証をもらって、頑張ったであろう現代の学生が半分も免許証を手に出来ないなんて、「申し訳ない」と言うしかないだろう。社会に出てから活躍するのは私立の出身者が圧倒的に多いことからすると、それこそもったいない話だ。  つい最近僕は、授業料が払えずに帰国を余儀なくされた外国人学生が、同郷の学生と思い出作りの京都旅行(日帰り)に出かけるところに遭遇した。その光景を今日の薬学生の記事ですぐに連想した。大人が作った社会秩序に抵抗する気概を失った青年達は、今やまるで羊の如くおとなしくなっている。大人達にとっては好都合この上ない。若者の間に社会正義を訴え実行する勢力が現れることを願っている。