避難訓練

 昨日初めて地区の避難訓練に参加した。海辺の町だから地震による津波を想定したものだった。開始のサイレンも、東北であの日鳴り響いたものと同じだったから、訓練と言えども恐怖を少し覚えた。  サイレンとともに集合場所になっている薬局の駐車場に人が集まってきた。区長から訓練に貸してくださいと頼まれたのだが、広い駐車場を手に入れていて良かったと少しばかり町に貢献出来たことで朝から気分が良かった。  30人以上人が集まったのになかなか山に向かって出発しない。僕はウォーキングも兼ねての不純な動機による参加だから早く出発したかった。町のイベントに参加すると必ずご褒美にジュースやパンが出るから「先にジュースを飲んでおく?」と世話役に提案したのだが、今日は出ないらしい。そこへやっと責任者が自転車でやって来た。そして着くなりやおらポケットからタバコをとりだし一服し始めた。事前の予想では、と言うより以前の実績から言うと、訓練に数人でも出席してもらえれば十分と思っていた世話役が今日の多さに驚き喜んでいた。そして僕の所に近寄ってきて「70歳以上は足手まといになるから置いていこうか?」と提案してきた。そこで融通が利かない僕は「置いていったら何が起こるか分からないから、フェンスに縛り付けていこう」と模範解答をした。  やっとの事で出発しようとしたとき、慌ててある男性がやってきた。模擬のサイレンが鳴ってから15分くらいはゆうに経っていると思う。恐らく足が少し不自由だからサイレンとともに避難を始めてやっと集合場所にたどり着いたのだろう。彼は山の中腹に住んでいて、これからみんなが避難訓練で目指す辺りと標高が同じくらいだ。「○○さん、死にに降りてきたようなものじゃが(死ぬために降りてきたようなものではないですか)家にじっとしていた方がいいんじゃない?」またもやここで僕の模範解答。低い方に逃げてきてどうするの。  「板底一枚で命がけ」の漁師町の可愛くない避難訓練の実況中継。