深層

 僕が学生の頃は、丁度かの国がアメリカと戦っていて、国内の大学でもかの国の侵略に対する反対運動が起こっていた。あまり理解できないまま、それでも標準的な理解と義憤で僕も一連のうねりの末席を汚していた。  当時同世代のかの国の人達は武器を持って圧倒的な力を誇るアメリカと戦っていたのだ。そしてその世代の子や孫が、皮肉にもアメリカに追従していた日本に働きに来ている。痛めつけられた国におべっかを使う卑屈さは、日本がすでに手本を示していて、誇りも尊厳も感じられない・・・が、腹を割って話せば、思いをじっと秘めている子もいる。  この子は日本の大学に留学生としてきているから、かなり日本語を話せて、微妙な言い回しも理解できる。彼女が教えてくれたのだが、彼女のおじいさんは○○○○戦争を兵士として戦ったのだそうだが、現在のかの国の政府を嘆いているのだそうだ。アメリカと戦っているときは、かの国のリーダー達は立派だったが、勝利した後は変わってしまったと嘆いているのだそうだ。  恐らく多くの国を愛する青年達の命と引き替えで得た独立を、その後の支配者と称せられる人間達が欲望の手段に変えたのだろう。どこの国でもいつの時代でも延々と繰り返される大罪だ。ただそれを暴き罰するのに気の遠くなるほどの時間を要し、結局は罰せられるべき人間がまっとうな最期を迎えてしまう。  かの国では戦いで勝ち取ったはずの自由がなく、この国では負けて与えられた自由があり、そんな似て非なるものの両方を見ているその子達が、心の深層に何を大切に秘めているのか、少しだけでも覗かせて欲しい。