軟球

 牛窓に帰ってきてすぐに若い警察官達と親しくなり、警察の野球部に混じって練習をしていた。それ以来のことだろう、軟球を投げたのは。30年近く投げたことがないからどうだろうと思って投げてみたら、思いの外投げれた。長い間球を投げるような動作はしていなかったから、どの程度出来るのかと思ったが、恐らくフォームなどはかなり昔に近いような形で出来たのではないか。 と言うのは、折角の日曜日だから、朝のウォーキングは日が昇って温かくなってから始めた。いつもは狭いテニスコートを巡回するのだが、今日は運動場を歩いてみることにした。幸い中学生のクラブ活動はまだ始まっていなかったので、広い運動場を独り占めに出来た。フェンスに沿って歩き始めて、丁度バックネットの裏にきたときに、籠の中に沢山の軟球が入れてあるのを見つけた。いつもそこに保管しているのか偶然か分からないが、あたかも僕に投げて見ろと促しているかのようだった。お言葉に甘えて?バックネットのコンクリート目がけて子供がするように投げ、その跳ね返りを又子供のように華麗なる?動きで捕球する、それを何度も繰り返した。朝起きて1時間もしない内の運動だから、肩が気になって最初は軽く投げていたが、そのうち意外とまだ投げれることに気がついて、どのくらい速い球が投げれるのか、どのくらい遠投が出来るのか試してみたくなった。立ち位置を次第にバックネットから離して挑戦したが、けっこう投げれた。色々と体力や能力が落ちているが、このことに限ってはあまり落ちていないと自分では判断した。どの位時間が経ったのか分からないが、汗が出始めて息も上がり始めた。又尻タブ辺りに痛みを感じ始めた。恐らく日常では全く使わない筋肉を使っていたのだろう。  予期せぬ朝の出来事のおかげで、今日は昼からの漢方の勉強会も、その後の新年会もとても充実したものになった。筋肉を動かし、その結果熱量を発生する。当たり前のことがなかなか出来ない日常の中で、ちょっとした工夫でより健康的に暮らすことは出来る。頭で理解していてもなかなか実行には移せない。やるかやらないかでとてつもない差が生まれることは分かっているのに。目の前のグランドに用意されたかのようなボールをもっと早く見つけて、筋肉の退化を防いでおけばよかったとしみじみ思った。この30年僕が投げ続けたのはボールではなく、匙ばかりだった。