問題

 今日は少しはまともな息子でいることが出来たのかなと思う。  我が家の軽四には車いすを積むことが出来る装置が付いているが、幸運にも買ってから10年近く、その装置を荷物を積むこと以外には使うことがなかった。 だが昨年当たりから時々母を乗せるために使い始めた。使わないにこしたことはない装置だが、いざその時になると確かにとても便利だ。  今日はたっぷり時間をかけて母を施設から連れ出そうと以前から計画していた。どこか公園にでも連れて行ってあげれば喜ぶのではないかと思ったのだ。母が世話になっている施設から一番近い公園は玉野市にある深山公園だ。名前の通り、瀬戸内海のすぐ傍にあるのに 結構山奥っぽい風情を醸し出している。何度か訪れたことがあるのだが、名前の由来通り奥深いところまで入っていったことはなかった。ほとんど入り口にある整備された芝生でせいぜい寝転がるくらいなものだった。今日は母の車いすを押して評判の森林浴をしてみようと思ったのだ。  期待通りの気持ちよさだった。圧巻は大きな池で群れる鴨や白鳥にほんの数十センチの所まで接近できたことだ。その気になれば手で触れるのではと思うくらい人間を恐れない。もっともパンくずを多くの人がまいていて、それを食べようとして寄ってくるのだが。そうした光景を証明しているような看板が面白かった。「白鳥がじゃれてくるから注意してください」と言うものだった。白鳥が人間にじゃれる?注意?どうされるのか、どう注意するのか分からなかったが、それはそれで心温まる看板だった。  山だから当然と言えば当然なのだが、坂道になると車いすは結構重たかった。道と並行になるくらい前傾しないと上ることが出来なかった。そして上るより、下る方が力がいることも体験した。加速がつきそうになる車いすを引っ張るのは押すより力も必要だったし何よりも気を使った。車に戻ったときは背中に汗をかいていた。  深山公園よりももっと急なのは、母の実家の墓地だった。山の上にあるのだが、近くまで車で上がってから10メートルくらいが、心臓破りの坂だ。そこはさすがに一人では無理だったので妻と二人がかりだった。ただ、朝迎えに行ったときは表情もなく口数が少なかったが、夕方近く、お墓参りの頃になると、モコの名前を自然に口から出していたり、墓参りに連れてきてくれたことを感謝してくれたりした。両親や兄嫁などが眠っている墓なのだが、分かっているのかどうか確かめる勇気はなかった。  介護という正解の見つかりにくい問題に挑戦することを避けている自分を恥じ入ることが時にあるが、今日はそうした気持ちから少しだけ離れることが出来た。