拷問

 もし1錠が636円するアリセプトを毎日飲んだとしたら1年で232140円。この人が5年間痴呆のまま生きたとすると、1160700円が製薬会社に入る。以下の情報によるとアルツハイマー病は鰻登りで増えていくから製薬会社に入ってくるお金が一体どのくらいになるのだろうかと思う。もう20年しないうちに7600万人だから116万×7600万で88兆もの金が会社にはいることになる。国によったら予算以上の金額になるのではないか。  僕が暇に任せてこんな計算をするのは、母の経験で、又調剤薬局業務の印象で若年性以外を病気と呼んで治療するのが正しいのだろうかと思うからだ。母は静かに着実に老いていっていたが、勿論思考力も並行して、ただ一度だけアリセプトを飲ませたとき凶暴になった。その時の手の負えなさで施設を初めて頭に描いたのだが、薬を止めさせてからは又元の順調な老いに戻った。入所してからもその手の薬は断っているから、穏やかな表情を保っている。そして動きも言葉も少しずつ少なくなってきている。ただ見ていて、それがとても自然なように見えるのだ。外から何か介入しなければならないのかと思う。自然の流れに順調に乗っているのに。もう大往生しか僕には想像できない。  もしあの手の薬が効くとしても、所詮岡山から東京に行くのに新橋で降りずに東京駅で降りるほどの差しかない。あの一駅のために116万円も使うとしたら、これから医療費を負担する次の世代の人達に気の毒だ。  お腹を輪切りにし、それをお腹から取りだして如何にも脂肪がとれるように思わせるコマーシャルも法律では裁かれない罪に見えるが、この痴呆を巡る薬も同類に見える。単なる老いに経済上の視点で介入することは許されないと思うし、お節介も甚だしいと思う。何もかも捨てて去っていく人達の腕を掴んで苦しめてどうする。治療という名の拷問かもしれないのに。

国際アルツハイマー病協会(ADI)は、世界の認知症患者数が2050年までに3倍以上になる可能性があると、12月11日、ロンドンで開催されたG8認知症サミットで発表した。 現在、世界の認知症患者は推定4,400万人だが、2030年には7,600万人、2050年には1億3,500万人になると予測されるという。