専門馬鹿

 母娘で毎日泣いていると電話の向こうで訴えられても、僕には良い案が浮かばない。体調のことでもう随分とお世話させて貰って、かなり高い確率でお役に立てれているが、家庭が抱えている根本原因には良いアイデアが浮かばない。善良な家族でどんなことをしてでもお手伝いしたいが、薬剤師という職業と直接関係ない問題を解決できる能力は僕にはない。こんなことを言うと、いわゆる専門馬鹿のように聞こえるが、僕は所詮「専門も馬鹿」なのだ。  どう言った人に相談したらいいのか分からない。どう言ったところに駆け込めばいいのか分からない。僕は当事者でなく、第三者なのに、冷静に考えても答えが見つからない。これが当事者だったらどれだけ心労が重なるだろうと容易に想像できる。だからこそお手伝いしたいが答えに行き着かない。漢方薬で出来るのは人の心までで、環境は変えられない。  同じくらい深刻な悩みを抱えている人など一杯いるに違いない。表に出ないまま苦しんでいる人が実はとんでもない数いるに違いない。手が差し伸べられず、家庭の中で行き場を失った不幸が重たく沈殿しているに違いない。医療や薬などでとても解決できない苦しみは、深刻な病気に負けず重たく辛いだろう。想像し、理解できても、代わってあげることも出来ないし、何らかの力を行使することも出来ない。答えようのない歯がゆさの中で受話器を中途半端に置いたが、僕の頭の中ではまだその言葉が行き場を失い彷徨っている。