美談

 一体なんて言う光景を僕は見せられているのだろうと思った。  プロ野球のOBが小学生に野球を教えている映像が映し出されていた。小学生達が使い古した野球の道具を持ち寄って、アフリカに寄付をすることも放映されていた。さすが元有名選手達の呼びかけだけあって1000を越える野球道具が集められていた。心温まる話だ。だけど僕の心は温まるどころか凍り付いた。  会場は福島県だった。子供達が教えて貰っている脇で父兄が除染作業をしていた。土手に上って作業しているのだが、その服装がなんとも心許ない。つなぎを履いてマスクをしているだけだ。その格好で子供達のために懸命に除染作業とやらをしている。鎌で草を刈っている様子だったが、僕に言わせれば放射能をまき散らしているだけのように見えた。寧ろそっとしておいた方がいいのではないかと思えるのだ。舞い上がった埃を子供達は吸うだろうし、大人だって常にマスクをしているわけではなく、やがて吸い込んで内部から被爆してしまうだろう。  たしか今調子に乗っているお腹痛いおじさんが行ったときは、毒ガス工場に入っていくのかというようないでたちだった。あんな服装で近くに来られたらこの世の終わりかと思うような物々しい格好だった。ところが3回りも若い父親達が無防備に作業しているのだから、世の不平等を思い知らされる。  それにしてもスポーツマンや歌手や芸能人などの無知か保身か知らないが、まるで権力に雇われているかのような放射能に関する無関心ぶりには驚く。所詮その程度のレベルの人間の就職先だから仕方ないのかもしれないが、中には反骨精神に富んだ人間もいていいと思うが、勇気と知性のかけらも備えていない。彼らは美談稼ぎの陰に被爆を押しつけている業を悟らなければならない。